キンニクウラギール【KAC20235】

喜楽寛々斎

第1話

「人間は裏切っても、筋肉は絶対に裏切らない」


 その言葉で何度もジムに連れ込まれそうになったこと以外は、全部うまくいってたんだ。


 少なくともこっちはそう思ってた。


 それが突然、バディを解消された。


 しかも一方的に。


 どういうことかと問い詰めたら、


「別の奴と組むことにした」


 って。


 裏切る人間がいるなんて、そんなものは百も承知だ。


 頭がよかろうが悪かろうが、情が深かろうが浅かろうが、人は裏切る時は裏切る。


 でも、あいつは…


 あいつはそんなことしないって信じてたのに…!


「裏切って万歳で済むと思うなよ!絶対だと思っていた己の筋肉に裏切られる絶望を、とくと味わうがいいわ…!!」



 * * *



 今、ロッカーに隠れている。


 絶望と怒りを詰め込んで完成した“キンニクウラギール”をあいつのプロテインに混ぜようとしたら、人が来てしまったのだ。


「…一人で?」


「ああ。なんかターゲットが知性の高い奴の脳を好んで吸うらしくて」


「ヤバいじゃん!あいつの相棒、オックスフォードとハーバード両方で首席になった天才博士だろ?」


「そう。だから今遠ざけて、急いで狩ろうとしてるみたいなんだけど」


「いや、でも無理ゲーだろ。ソロでいける感じじゃなかったぜ。マズくない?」









 あの馬鹿。


 あの馬鹿…!


 あの馬鹿…っ!!


 ジムの誘いを断るんじゃなかったと死ぬほど後悔しながら、走るのに最適ではない体で必死に走るしかなかった。



 * * *



「なにそれ、“キンニクフエマクール”?」


「俺に最適化したプロテインだって。あいつが作ってくれたんだ」


「お、再結成?」


「再結成っていうか全部バレてて…『君は脳筋なんだから嘘つくとか不向きなことしないで、ちゃんと相談しろ』って怒られたわ」


『お昼のニュースをお伝えします。世田谷区で出没が確認されていた敵性生体は、防衛隊が新たに開発した筋萎縮薬を用いての駆逐に成功し…』


「やっぱ俺の相棒はあいつじゃなきゃね」

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