筋肉 【KAC20235】

はるにひかる

色々な筋肉


「最近、恋愛してないな~」


 ヨガのヨットのポーズで身体を捻ったら、自然とそんな言葉が漏れた。


 誓って言っておくけど、私──大増おおます瑠夏るか──は、恋愛脳とか恋愛体質とか、増して恋愛依存だとか言うわけではない。

 それにしても異性同姓問わず恋心というものをお休みしており、このままだと恋愛における筋肉がダルンダルンに緩んでしまうなと、ボンヤリと思ったのだ。


 大学の頃まではそれなりに人を好きになったり付き合ったり別れたりして恋心を謳歌していたけど、社会人になって数年、音沙汰が無くなってしまっている。

 出会いもそんなにあるものでも無いし、無理をする必要も無いのだけど、恋愛の筋肉も鍛えておかないと、いざ何かがあった時に持久力が落ちていて疲れてしまったり、判断を誤ったりするのではないかと危惧してしまう。

 また、いい人とのご縁があったときにフルスイングを出来なくなってしまうのではとも。


 その辺りはきっと、実際の筋肉と違いはないだろう。


 ──ふと、小学校から大学まで一緒だった、仲良しの幼馴染みグループの面々の顔が浮かんだ。

 何をするにしても、いつも一緒だった7人。私込み。

 あの子たちはずっと、誰かを好きになったとかの浮いた話もなく、修学旅行の夜のコイバナは毎回私の独演会だった。

 小学校低学年の時に、教室でが花凛にいきなり頬擦りし始めたときには百合展開になるかと思ってドキドキしたけど、そんな事も無かったし。


 ……大学卒業以来会えていないし、皆元気にしているかな。会いたいなぁ。

 メッセージのやり取りだけじゃ物足りないけど、それぞれ違って大変そうで、それを思って結局誘いを切り出せずにいる。



 ブーブーブー。

 布団を被って寝ようとしたとき、枕元のスマホが震えた。

 確認してみると、それはグループの1人、久地屋ぐちや紅茶ぐちゃからのメッセージだった。


『今、仕事帰りにたまたま花凛に会って話したんだけど、今度日程を合わせて皆で会わない? 全員が難しかったら、何人かだけでも。前みたいにさ』


 職場がブラックらしくて大変そうだからと誘い辛かった筆頭の、紅茶からのメッセージ。

 私は考えるよりも早く、『もちろん!』とスタンプを送っていた。

 私の心は一気に満たされて、今夜は特に心地よい眠りにつけそう。


 ……それにしても、“今”、仕事の帰り?

 紅茶からのメッセージの時間を見てみると、【0:10】。

 ──仕事の筋肉、鍛えられ過ぎて刷りきれないといいなぁ──。

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