第13話 失恋

 フラれた。

 誰に?

 翔吾くんに……。


 大好きな人にフラれたとき、自分の人格まで否定されたような気分になった。

 アタシって生きる価値ないのかな? アタシって魅力ないのかな、と自己価値まで見失ってしまった。


 辛いっ、辛すぎるっ。

 こんな辛い気持ちになるんだったら翔吾くんに告白しなかったらよかった。

 なんでアタシは翔吾くんに告白したんだろう……?

 告白しなかったらこんな惨めな気持ちにはならなかったのに。


 もう遅い。全てが遅すぎる。

 今更、あの告白をなかったことにはできない……。


 はぁ……まさか翔吾くんに彼女がいたなんて。

 そんなの聞いてないよっ。


 そう、今の翔吾くんには可愛い彼女がいるの。

 彼女の名前は谷本たにもと穂香ほのか

 

 最近、男子の間で行われた『可愛い女の子ランキング』で穂香ちゃんは一位だったらしい。

 そんな凄い子と戦っても絶対に勝てない……。


 たくさんアプローチを仕掛けても穂香ちゃんから翔吾くんを奪うことはできないだろう。

 アタシの恋は終わったんだ……。 


「うぅぅ……あぁっ、あぁっ……うぅぅ……」


 翔吾くんにフラれたことが辛すぎて、ボロボロと子供みたいに泣いてしまう。


 一週間経っても未だ立ち直れず、たまに学校で翔吾くんとすれ違うと涙が出そうになる。

 今日も翔吾くんが夢の中に出てきて、また泣いてしまった。

 失恋ってこんなに辛いんだ……。


 忘れたいっ。

 早く翔吾くんのこと忘れて、新しい恋をしたいよっ……。

 

 この失恋は時間が解決してくれる、と思っていた。

 けど違った。

 一年経ってもアタシはまだ翔吾くんのことが好きなままだ。


 そう、翔吾くんにフラれてもう一年が経つのに、アタシはまだ彼のことが好きなの。

 もはや、この恋心は呪いだ。

 

 いつになったらこの呪いは解けるんだろう……。

 はぁ……早く翔吾くんのこと忘れたいよ。


 翔吾くんのことを忘れるために、アタシは前田まえだ太一たいちくんという男の子と付き合ってみた。

 太一くんとはSNSで仲良くなったの。

 

 太一くんはイケメンで、喋りやすくて、面白くて。

 この人と付き合ったら翔吾くんのこと忘れられると思ったけど……全然ダメだった。


 太一くんとデートしているとき、いつも『翔吾くんと遊ぶ方が楽しいな……』と思ってしまう。  

 いつも太一くんと翔吾くんを比較してしまう。


 ダメだっ、太一くんと付き合っても翔吾くんのこと忘れられない。

 というか、太一くんとデートしても全然楽しくない。

 ぶっちゃけ退屈だ。


 結局、太一くんとは別れた。


 他にも色んな男の子と付き合ってみたけど、長く続かなかった。

 

 やっぱり他の男の子じゃダメだ。翔吾くんじゃないと満足できない……。

 

 翔吾くんと恋人になりたいよっ。

 彼の特別になりたいよっ。

 甘い声で『ナナミ好きだ』って言われたいよ。


 翔吾くんと付き合いたいけど、今も彼は穂香ちゃんと付き合ってるんだよね……。


 そう、翔吾くんと穂香ちゃんは今も仲良しなの。


 たまにアタシが『翔吾くん! 今から一緒に遊ぼう!』と遊びに誘っても、『悪い、今日は穂香と二人きりで遊ぶ約束してるんだ』と断られる。

 お昼休みに『翔吾くんっ、お昼ご飯一緒に食べよう』と誘った時も、翔吾くんは『ごめん、今日も穂香と一緒に食べるんだ』と冷たく断られた。


 今の翔吾くんは穂香ちゃんに夢中で、全然アタシの相手をしてくれない。

 それが寂しくて仕方ない。


 んっ? ちょっと待て……。

 アタシ、翔吾くんに同じことしてなかった?

 

 中村亮太くんと付き合っていた頃、翔吾くんに『一緒に遊ぼうぜ!』と誘われても、アタシは『ごめん、今日は彼氏と遊ぶから無理』と断っていた。


 お昼休みに『ナナミ! 一緒にお弁当食べようぜ』と誘われた時も、アタシは『今日も彼氏と2人きりで食べるから無理』と冷たく断っていた。 

 先に翔吾くんと遊ぶ約束していたのに、彼氏を優先したこともある。


 あの頃のアタシは亮太くんに夢中だった。

 亮太くんが全てだった。


 正直、翔吾くんのことなんかどうでもよかった。

 眼中になかった。

 だから翔吾くんに『一緒に遊ぼうぜ』と誘われても、絶対に断っていた。


 恋をするとね、視野が狭くなっちゃうの。

 彼氏のことばっかり考えて、他のことはどうでもよくなっちゃうんだよね……。

 

 たぶん、今の翔吾くんはあの頃のアタシと同じなんだ。

 谷本たにもと穂香ほのかちゃんのことが好きすぎて、もうアタシのことなんかどうでもいいんだろう。

 

 それが辛くて仕方ない……。

 

 あの頃のアタシは翔吾くんにこんな酷いことしてたんだ。

 最低だ、アタシは本当に最低だ。

 ごめんね、翔吾くん、本当にごめんね……。

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