26話目

「パスを出せ、パスを。」 

 高校時代の部室に小寺先輩と太谷大治がいた。小寺先輩のラグビー談義は尽きることなく、太谷に注ぎ込まれていた。そしていつものように太谷のプレースタイル、いわゆる猪突猛進を咎められていた。

 小寺先輩は呆れたように言った。

「お前ボールを持ったら自分が爆走してトライすることしか考えてないもんな。後ろを少しは気にしろ。」

 太谷は嬉しそうに頷いた。小寺先輩は続けた。

「お前より前から、最後のパスを出した俺はいなくなるわけじゃない、いつもお前の後ろから指示を飛ばしてる。後ろから走り込んでくる仲間も他に13人いる。」

 太谷は何度も頷いた。

「だから周りをよく見ろ。お前がボールを持って最前線にいるとき、必ず後ろに誰かいる。パスを出せ、パスを。」

 にこにことうなづく大男にわかってもらえないと思いながらも小寺先輩は必死に説いていた。


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