ボディビルダー

櫻木 柳水

読切『ボディビルダー』

先日のお話なんですけど、仕事が終わって一人寂しく家路に着いていたんですね。

そしたらですね、何か聞こえるなぁ、と耳を澄まして聞いてみたんです。

するとね、『ふぅん!ふぅん!』という声がですね、少しずつ近づいてきてる音なんですね。


嫌だなぁなんて思って角を曲がったら、居たんですよ、そこに


野良のボディビルダーが……


私はね、目を合わせないようにして、通り過ぎようとしたんです。

あ、よかったぁ、もうすぐすれ違うな、と言うところでですね


『お兄さん、筋肉、キレてないね』


と、私を見てきたんですね…ぽっかりと空いた目で…

私は思わず


「あぁ!野良の筋肉怖い!」と言うとですね


『ならば貴方の怖い、筋肉、を差し上げましょう』と言って、私の腕をつかんできまして…そして…


ーーーーー


「ストップストップ!え、これなんの話?」

向かいにいる芸人は、ヒョロガリと筋骨隆々な男二人。

「いえ、僕が実際に体験した夜道でのお話なんですが…」

ヒョロガリの方が答えた。

「いやいや、夜中にボディビルダーなんて、作り話にも程があるでしょ?それで似てる人連れてきたの?」

俺が聞くと、ヒョロガリは不思議な顔をしていた。

「え?いや、今日僕1人で来ましたけど…」

何を言っている、隣に居るじゃないか。


ボディビルダー風の男がニコニコとしながら立っている。


「何、そこまで設定作りこんでるの?凄いね、隣の人」

「隣の?」ヒョロガリは更に怪訝な顔になる。


「ディレクター…この人、1人ですよ?」

横にいるADが耳打ちする。

「そんなばかな、隣にずっといるじゃん……あれ、いない?」

すると俺の後ろから、いやもっと近くから声が聞こえた。


『お兄さん、筋肉、キレてないね…』


私はそこで気絶してしまいました。

一体あれは何だったのでしょうか

では、これからジムに行きますんで……

え?いやいや、大丈夫ですよ?


あれ?


お兄さん……


筋肉、キレてないですよ?

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ボディビルダー 櫻木 柳水 @jute-nkjm

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