筋肉が統べるこの世界で

名苗瑞輝

筋肉が統べるこの世界で

 皆さんこんにちは。お元気でしょうか。俺は元気です。トラックにはねられましたがピンピンしています。まあ、死んで転成したからなんですけどね。

 とはいえ困ったことに、よくある神様も出てこなくて、チュートリアルもなしにこの世界に放り出され、途方に暮れているわけで。

 一応「ステータス」と言えばステータスが確認できるみたいなんだけど、そこにはこうとしか書いてない。


『スキル:筋肉』


 いや筋肉って何? スキルって技能でしょ? 筋肉って技能じゃ無くて肉体じゃん? 心技体って感じで別ジャンルでしょ。

 そんなことを思いつつ、とりあえず森を歩く俺。なんでこんなところにいるのかもよくわかってないけれど。

 すると女性の悲鳴のようなものが聞こえた。よくある展開だ。きっとここでスキルが活躍する……ほんとか?

 一抹の不安を抱きつつ声のした方へと駆けつける。

 そこには悲鳴を上げただろう少女、そして人型のモンスターらしき姿が見える。少し小柄だからゴブリンだろうか。

 俺は颯爽と二人の間に割って入る。そしてスキル『筋肉』を起動する。

 途端、体中が締め付けられる感覚に見舞われる。サイズが合わない服を着たような感じ。

 なるほど、俺の筋肉が肥大化しているわけだ。そう気づいたときには服が千切れとんでいた。

 そんな俺の姿を見たゴブリンは、まるで恐れをなしたように一目散に逃げ出した。まだ何もしてないんですけど?

 とりあえず危機は去った。少女の方に振り返ると、彼女はわなわなと震えていた。


「あ、あああ……」


 そう言えばいま、俺は筋肉ムキムキの全裸だ。これはまずい。


「きゃー!」


 案の定、彼女は悲鳴を上げた。けれど、さっきとは少し違う声色にも感じた。


「ナイス筋肉、人間ゴーレム!」

「……は?」


 この世界は筋肉がすべてで、今のが筋肉を褒め称えるセリフだということを知ったのはこの後のことだ。

 こうして俺の筋肉無双が始まるのであった。

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