人生には女なんて必要ないよな。生きるため大切なものは……

神無月ナナメ

人生のすべてが成り行きだ

 この世界とは違うどこかの地球。時間の流れと同じ歴史でも細部が異なる。

いわゆるあれだ……バタフライエフェクト。ダンジョンが誕生する並行世界。


 戦後の闇に生まれたパチンコ。業界バブルは30兆円で弾けて衰退の一途。

紙の本が売れずにエンタメ業界は衰退の兆し。成功する未来のないIR法案。


 それでも業界の隅で生き残りネット動画で細々と食い繋ぐ……業界人たち。


 斜陽産業パチスロ。警察省の厳しい規制。その引き金になる爆裂5号機だ。

時代は平成末期……生き残りをかけた。広告規制ギリギリのホールイベント。


 業界紙のライターを呼び集客人数を増やす。出玉感を見せつけて客を呼ぶ。



 そんな当時の首都圏でも南の湾岸線。中型店が軒を連ねる郊外の密集地だ。

正午開店ちょびっと前に愛車のV-maxで乗りつけた。オレは九頭竜令司。


 表向きは赤門で有名な国内最高峰大学の院生。ほとんど研究三昧の生活だ。

関西の魔界都市である神戸出身。学部時代のバイト代わりで覆面スロッター。


 ちょこちょこと業界紙の片隅。定期連載したこともあるが顔出しはNGだ。



 世間的に学生の裏。片足でも業界に突っこんだのは偉大な先輩がきっかけ。

東大中退のパチプロ。昭和から平成の初頭にかけて伝説の田山さんに憧れた。


 早世した彼とは会えず仕舞い。ただ当時の編集長と知己になり後を継いだ。



「あぁ忙しいところ申し訳ない。必勝ガイドの大崎だけど九頭竜くんかな?」


 数年ぶりの連絡で急きょ呼びだされた。偶然じゃない五月十日は導入週だ。

業界では数字が揃えば大当り。それで語呂合わせ。周年記念日に利用される。



 動画まで撮影するらしい。もちろん以前のように顔出しNGは徹底させた。

ちょっと驚いたのが美人の編集者だ。カメラマンと兼務で大崎さんの同伴者。


 かつて学内で見かけたことがある。当時はミスコンテストで優勝の美女だ。



「えと……どこかで見たこと。2メートルの長身。イケメンって後輩くん?」


 もちろん百人近い最後尾に並んで抽選を受けた。ほぼ最後尾からの入場だ。

老舗メーカーのユニバーサル。ミリオンゴッド凱旋は5号機ラストの爆裂台。


 角台だけが無人で放置だよ。前日履歴を台の表示機で確認すると凄まじい。

最終出玉が万枚を超えている。この機種は設定どおりじゃない。ヒキ次第だ。



 ゴッドの日なんて噂される五月十日。向かい合わせ二列で横がカウンター。

一番目立つ位置にあるからないともいえない高設定。すべては展開次第かな。



 朝一のメリットでリセット後は天井が浅くなる。最大でも1000ゲーム。



 もちろん「おはよう天井」おはてんが始まりだ。それでも恩恵が凄まじい。

50%の関門。突破するだけで天国状態に突入。ここのヒキがすべてなんだ。



 そもそもミリオンゴッドは初代からヤバい。中段にGODが並ぶと五千枚。

わずか1ゲーム……一撃で十万円の払い出し。もちろんプレミアム役になる。


 それでもデメリット部分は半端じゃない。千円で回せる平均が20ゲーム。


 当たり前に限りなく低い確率で1/8192。一日で最大8000ゲーム。

おはてんゴッドゲームを終えて引き戻しGゾーン。中リールを押すと驚きだ。


「えっ!? 中段GODテンパイっ?」一瞬だけ右手が震えたかもしれない。


 年齢より若い少女みたいな声が背後から響いた。どこか脳内も冷静になる。



 もちろん初代4号機と出玉性能が違う。それでもゴッドゲームは300枚。

プレミアム役のGOD揃いで5連チャンが確定する。しかも天国状態だよな。


 結局のところ設定は関係なしに大爆発。夕方までに一撃万枚を達成できた。


「アッハッハさすが覆面ちゃん。すっげぇ動画撮れたから朝まで飲もうぜ!」


 破顔した大崎さんの一声。決定した飲み会だ。なぜか周囲には美女ばかり。

もちろん愛車は店長に厳重な保管をお願いした。タクシーで移動した繁華街。


 普段ならめんどくさいから女は近寄らせない。それでも今回思惑があった。

気になる女がいれば誘いたくなるのも仕方ない。相手の思惑はどうでもいい。


 パチスロなんて趣味の延長でしかないからな。それだけじゃ喰えないんだ。



「ふーん。レージくんはこっちの業界でトップ。有名になれる逸材だけどさ。

まいっか。あたしの後輩ちゃんたち開発してもらいたいし。問題だらけなの」


 豊満な胸を下敷きにタバコを咥えた美女。そのピロートークも辛辣すぎた。


「後輩ちゃんってことはうちの学生かよ。めんどくせぇから関わりたくない」


「そんなこといわないで。みんな外見と家柄いい性格だけ難ある美人ちゃん。

んーもちろんタダとはいわないし。いろんなバイトと美味しいネタの相殺で」


「これからは研究ばっかで時間もねぇ。女欲しいわけじゃないし面倒くさい」

「あなたの後輩でしょ白のカナちゃん。もひとりが一見は地味な眼鏡ちゃん」


「あいつらかよ。また断りにくいうえに面倒すぎるヤツらに近づきたくない」


 なんでこんなメンドクサイことになった。まともな研究生活が消えちまう。

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人生には女なんて必要ないよな。生きるため大切なものは…… 神無月ナナメ @ucchii107

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