鍛錬

熊のぬい

我らの王

カンカンに太陽が照っている。


彼は、はぁ、と熱い息を漏らす。


あまりの暑さに上半身の服を脱いでいく。


そこから現れる彼の肉体。


服を着ていた時よりも体が大きく見える。


筋肉に汗が垂れて、日差しで輝く。


腰に差している剣のグリップを右手でしっかり握り、左手で鞘を押さえる。


彼は集中するために、目を閉じた。


背筋はピンと伸びて彼の誠実さが伝わってくる。


息を大きく吸えば、胸が上に持ち上がり、その息を吐けば、肩の力が抜けて下がっていく。


それを幾度か繰り返し、最後に短く、息を吐き、鞘から剣を引き抜いた。


左下から、右上に斜めに剣先が動き、それから両手に持ち返る。


剣を振れば、彼の筋肉が動いていくのが分かる。


動作はゆっくりしていた。


流れるように横に薙ぎ、それからグリップを上に持ち上げ、ブレイドで体を隠すようにガードの姿勢をとる。


ロングソードは重く、持ち上げると肩から腕にかけての筋肉がよりはっきりと浮き出る。


その姿勢のまま静止し、流れる汗が地面に落ちる頃、ブレイドを頭上を通るように持ち上げる。


剣先が空を向いた時、振り下ろし空気を切る。


ブンと音が聞こえ、その速さが出ていることが分かる。


息を止めていたのか、呼吸が少し歩くなっていた。


今度は、左脇を開き、グリップを左上に、剣先を右下に持っていく。


さっきと同じように、また振り下ろしていく。


時間が許す限り、彼はそうして何度も何度も、速さを変えながらも、剣を振る。


彼は、自身がいつだって振れるようにこうして鍛錬するのだ。


いつ何時なんどき、有事があってもすぐさま動けるように、いつ何時、前線に立っていられるように。


その重圧はいくほどのものか、その剣の重みはいくほどのものか、我らは知る由もない。


体が未熟な頃に、その王冠を被り、そのすべてを背負った。


今は年老い、周りの者の方が若くなった。


なれど、彼は衰えることを知らない。


それが我らの王である。

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鍛錬 熊のぬい @kumanonui

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