第10話 吊り目の男

「にいにー、にいにー、いっしょ」

歩けるようになって、じいちゃんの代わりに日が昇る前に川まで水を汲みに行くのが日課になっていた。


今日はリオが目を覚まして、一緒に行くと駄々を捏ねている。


「分かったから一緒に行こうな」


抱きついて離れなかったリオが手を繋いでくる。前に一緒に行った時には、途中で歩けなくなったリオを背負って帰って、もう一度水を汲みに戻ったっけ。そうなるの分かっていても、リオの笑顔には負けてしまう。


いつもなら、歩き疲れて途中で背負って帰るはずなのに川で水を汲んで、そのまま家が見える所まで戻ってきている。


「にいにー、いっしょ、いっしょ」


リオはまだこれしか話せない。だけど、声の高さとか、速さで、言いたいことがだいたい分かる。といっても、眠い、お腹すいた、一緒にいるとかそれくらいだけど


そのリオが叫ぶ。


「にげて、いますぐ!」


リオが喋った!?


遠くに見える家が燃えていた。


「リオはここにいて!」


リオが握る手は少し強かったけど、振り解いて、水桶の水が溢れないように両手で持って家まで走る。家に近づくと、じいちゃんの叫ぶ声が聞こえる。


「わしらは二人で住んでるだけじゃ、子供なんぞ知らんわ、のう、ばあさん」


「おじいさんもわたしも、長く生きましたから、その剣で早く終わらせて帰って下さいね」


「話すつもりがないなら、望み通りにしてやろう」


その男の声はどこか聞き覚えがある。聞き覚えのある男の声なんて一人しかいない。


 —無属性、外れだ—


生まれてすぐに聞いたあの吊り目の男の声だ。


扉の奥で、二人の倒れる音がした。


「じいちゃん、ばあちゃん!」


二人はもう助からないと分かるくらい体が色々な方向に折れ曲がっていた。

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