ネガティブマッチョ
下垣
「肩にちっちゃい重機乗せてんのかい!」
僕はついに結果にコミットすることができた。学生時代のあだ名が枯れ枝だった僕も今では立派なマッチョだ。よーし、この筋肉をみんなに見せつけてやろう。
お、早速第1村人発見! マッチョポーズを決めよう!
「ふんぬ!」
第1村人は僕の筋肉を見ている。ふふ、この筋肉に酔いしれるといいさ。自信を持てるようになったのも、この筋肉のお陰さ。
「お、いいねえ。肩にちっちゃい重機乗せてんのかい!」
「え?」
肩にちっちゃい重機……?
「あ、あの。すみません。僕、肩にちっちゃい重機乗せられません。流石にトンを超えるものはちょっと……」
ああ、僕はなんて愚かなんだ。みんながマッチョに期待することと言えば、力持ちであること。つまり、肩に重機を乗せる程度できて当たり前なんだ。でも、僕にはそれができない。僕はまだ、マッチョの域に達していない。それなのに、道行く人に筋肉を見せつけて、悦に入ろうとしたなんて! 僕は自分が恥ずかしい!
「あ、いや。別に本当に肩に重機を乗せられると思っているわけじゃ」
「ごめんなさい。僕みたいな枯れ枝がみんなの期待に応えられるはずがなかったんです。死にます」
「ま、待ってよ。死ぬとかさ、そんなこと言わないで。ね? 物の例えだってわかるだろ?」
第1村人さんが僕に気を遣ってくれている。そんな……ぼ、僕はなんて……なんて……
「僕はなんて大馬鹿野郎なんだ。勝手に筋肉を見せつけて、勝手に失望させて、勝手に慰められる。気を遣わせてしまってすみません。僕みたいなでくの坊が生まれてきてすみません。来世に生まれ変わりません。転生しないので許してください」
「あ、いや。転生はしてもいいんじゃない?」
「ええ!? 転生しろってことは死ねってことですかぁ!? やっぱり、そうですよね。僕は生きている価値がないんだ」
「いや、そういうことじゃなくてね。もし、もしよ。死んだ場合ね。そういう時は転生してもいいってことで、今すぐ死んで転生しろってことじゃ……」
「ああ、転生したら金持ちに飼われている猫になりたい。できれば、20代後半のグラマーでセクシーでインテリ系のハイスペックな美女を希望します」
「ネガティブな割には強欲だな」
ネガティブマッチョ 下垣 @vasita
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