夜闇の迷い子

2121

夜闇の迷い子

 ただ迷いたかっただけだった。

 制服のリボンを指に巻き付けて遊びながら、足取りは強く前へと進める。既にすり減ったローファーのかかとを更にすり減らすように、前へ。

 ポツリポツリとしか電灯の無い道を進むと十字路に差し掛かる。カーブミラーは私を映し、無感情な顔がこちらを見下ろしていた。さて、どちらに行こうか。

 ━━あちらの方が、どこか夜闇が深いから。

 適当な理由を付けて、右へと曲がる。コインを投げて決めるのとそう代わりはない。

 目的地も何もない宛の無い散歩は、散歩というにはあまりに気楽さが無い。知らない場所へ。より知らない場所へと行きたいだけの道のりだった。知らない場所へ、私を知らない人しかいない場所へ。私を知らない深夜の闇は、どこか他人行儀で居心地が良い。

 結局のところ鬱屈とした日常から逃げ出したいだけなのは分かっていた。高校三年生に上がるだとか、今が三月とか、卒業式とか、部活のこととか、親とか、友達とか。考えることは色々あって、こんなことならどこかに行ってしまいたいと、こんな夜更けにフラフラと外に出たのだった。どうせ心配もされないのだろうし。

 今日何度目かになる十字路に差し掛かる。

 ━━次は左。

 真っ直ぐ進んでいくと、遠くの道沿いに青い光が見える。いわゆる三大コンビニの一つの光で、喉も乾いてきたから寄っていこうと目的地を青い光に設定する。洞窟の先にある光を目指すようにコンビニを目指していると、ふとここが見知った場所であることに気付く。いつの間にやら、ぐるりと一周して知っている場所に戻ってきていたらしい。

 ああ良かった、とどこかコンビニの青い光が暖かなものに感じられた。

 結局のところ、安心したいのだろう。不安から解放されたくて、こんなことをする。本当は解放なんてされてないけれど、この自ら作った嘘の安心が私を安定させるには必要だった。

 コンビニでペットボトルの水を買い、外に出て飲む。喉にしみて胸の中にすっと冷たさが染み込んでいく。

 仕方ないから日常に戻るか。

 どこか諦めながら帰路に着くことにする。頭はどこかスッキリとしていて、家を出たときよりも少し前向きになれそうな気がした。

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夜闇の迷い子 2121 @kanata2121

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