05 ダンジョン三階
「そういやこれ、この前黄色いスライムを倒したじゃん」
僕は棚から薄く黄味がかった透明のボールが入った箱を取り出した。親指と中指で丸を作ったくらいの大きさのボールが十個ばかり並んでいる。
「これが?」
「防御の玉なんだけどさ、魔法も防御するみたいなんだ」
二人が僕の作ったボールを手に取る。この前使った防御のボールと大して違わない。外側を少し硬くしてあるので、踏ん付けないと壊れないんだ。
お父さんは壊すとキラキラと光が出てしばらく輝くボールを作って、僕は歓声を上げて喜んでいた。
「これをどうするんだ?」
「第一王子にぶっかけたい」
「うーん、何となくエリクの気持ちは分かるけど」
ジュールがじっとボールを見る。
よくある物語で魅了の魔法を使う悪女が出る話がある。聖女がそれかどうかはよく分からないけど、第一王子がそれにかかっているんだったら解けて欲しい。
だってルイ第二王子は好きじゃないからさ。偉そうだし僕たちの事、落ちこぼれって言うもんな。悪だくみもしてそうだし。
「これ、五日くらい効果が持つんだ」
その間に魅了とか解けないかな。
「王族ってアミュレットとかそういうの身に着けていないか?」
「魔力が高い人は魔防も高いだろ」
それは分かるけど。
「でも、試してみたい」
「うーん」
考え込んでいたジュールが起き上がって指をパチンと鳴らす。
「そうだ、ダンジョンに行けばいいんじゃね」
「え」
「そうだな、何となく会えそうな気がする」
ニコラがニヤリと笑う。何だろうその笑い方、悪だくみをしているみたいだ。
* * *
そういう訳で僕たちはまたダンジョン潜りを始めたんだ。レベルは上がるし、お金も手に入るし、素材も取れて一石三鳥だ。
これでヴァンサン第一王子に会えたら一石四鳥か? でもまあそんなにうまく行く訳もなくて、なかなか第一王子とは出会わなかった。
「今日は地下三階まで下りてみるか?」
ニコラが張り切って聞く。
「よっしゃ」
「おー」
もう第一王子そっちのけでダンジョン探索をしている。
レベルも二つ上がって、僕の風魔法もやっとレベルが上がった。かまいたちみたいな『風の刃』を飛ばせるようになったんだ。ニコラは火魔法が上がって、剣を振ると纏っている炎が見えるようになったし、ジュールも水魔法の『水の刃』と『ミスト』と支援魔法の『探索』が出来るようになったんだ。
地下は一階も二階も明るいけれど、少し肌寒い。二階から階段を降りて少し歩くと、上の方から羽音と共にキンキンと耳障りな鳴き声が聞こえて来た。
「わ、何だ」
コウモリが頭上から攻撃してくる。鋭い爪で引っ掻く。
「コウモリだ、キンキンコウモリだ!」
キンキンいう耳障りな音で集中できない。
「逃げよう!」
二人の手を引っ張って階段まで走った。
「はあ、はあ、怪我したぜ」
一番前にいてガタイの良い二コラがどうしても狙われる。
手に引っかき傷がいくつかついていた。
「毒は無いかな」
アベル兄ちゃん直伝の傷薬を塗ってやる。僕が作れるのはこの程度だけど、薬草はこの森に生えてるし重宝している。
「回復するぞ。『ヒールミスト』」
ジュールは水の回復魔法が使えるようになった。これは誰でも使える訳じゃなくて応用編になるから難しいんだ。すごいな、消耗した体力が戻ったよ。ニコラの怪我もすっかり治っている。
「まあ一度に三人回復できるけど、一、二度しか出来ないし、回復量も少ないよ」
「はあ、コウモリどうする?」
「耳栓作るよ」
一階で採ったスライムジェルを捏ねて、コヤの木の実で作ったバターを絡めて耳朶くらいの硬さに固める。二人に渡すと耳に詰めてよっしゃと気合を入れた。
先程の所まで行くとまたキンキンコウモリが出て来る。ニコラが魔法剣、ジュールが『水の刃』を連発、僕も『風の刃』を連発。
ある程度倒したら出て来なくなった。
「コレ、耳とか羽根とか素材になりそう」
「じゃあ耳と羽根と魔石を採ろうか」
守衛所の兵士さんが、このダンジョンに出る魔物と素材をあらかじめ教えてくれるんだ。無駄にしたらもったいないからね。でも、僕が作る魔道具の素材は少し違っていて、守衛所で引き取ってもらえないものもある。
耳栓を外してダンジョンの中をまた進む。その後は特別癖のあるモンスターはいない。奥に行くと開けた場所があって水場があった。
水は岩が崩れたような所からチョロチョロと流れ込んでいる。水は澄んでいるが飲用にはしないよう手引きに書いてあった。お腹を壊すのかな、この水は素材にはならない様だ。
見回すと近くにたくさん光苔が生えている。
「わ、すごい、光苔ってこんな所に生えてるんだ」
これのせいで明るいのかとか、光玉が出来ないかと考えながら苔を採集する。
「この水の中に何かいるな」
ジュールが水場を覗き込んで言う。
「何がいるの? ジュール」
「貝かな、いやヤドカリか」
「あ、ヤドカリン? 守衛所の冊子で見た。ここに居たんだ」
「ちょっと深いとこにいるな、届かないな」
「ニコラ、剣でもダメ?」
「やってみる」
ニコラが剣を抜いて殻をツンツンすると、ヤドカリンは怒って水から飛び出して来た。殻が堅そうだと思ったけれど、魔法で攻撃すると殻を置いて水の中に逃げて行った。
「変な奴ーー」
僕は殻が素材になるのでこれでいいのだ。ついでにそこらにいる二、三匹をツンツンして殻を貰った。
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