04 黄みがかった透明な


 しばらく僕たちはダンジョンに行かず大人しくしていた。幸いな事に兵士に引っ張られるような事は無く、呼び出しを食らうことも無かった。


 ヴァンサン殿下はニコラ達に聞いたところによると、ものすごい魔力の持ち主で属性魔法は全部使えて、剣技も優れた怖いものなしな方だそうだ。それ故か少し冷めたというか冷たいというか怖い方だという。

 スラリとした長身で、透き通ってちょっと冷たい感じの銀の髪と、心の奥まで見透かされそうな瑠璃色の瞳をした、非常に綺麗な、ある意味人間離れした方だった。



 放課後、僕は図書館に急いでいた。この前見た魔道具の書物を確認して、もう少し理論を詰めないと。最後の授業は選択でニコラとジュールはまだだった。僕はひとりで図書館に行ったんだ。本を開いていると誰かが図書館に入って来た。

 甘たるい匂いが奥にいる僕の所まで漂って来る。


 僕はこの前の事があったので、かなり奥の方の人の来ない場所にいたけれど、そっと椅子を下りて、もっと隅の方まで行って身を潜めた。

 こういう時に隠れられるものがあったら便利だよな。

 僕はこの前読んだ東方の本を思い出した。『ニンジュツ』というその本は色々便利な道具が載っていた。今度作ってみようか。


 その時ドヤドヤと足音がして、誰かが入ってくる。

「やあ、アリアーヌ」

「あら、ルイ殿下、ご機嫌よろしゅう」

「うむ、ちゃんとやっているか」

「もちろんですわ」

「そろそろ次に行くか」

「分かりましたわ、殿下。ではごきげんよう」

 ドヤドヤと足音が出て行く。しばらくしてひっそりともう一人も出て行った。


 今のは何なんだ。僕は頭を抱える。

 噂の連中とは──、

 アリアーヌこと聖女アリアーヌ・ソレンヌは、この国の第一王子ヴァンサン・デジレ・バルテルの恋人と言われるピンクの髪の可愛らしい乙女だ。

 彼女は編入生で聖属性の魔法が使え、聖女ではないかと言われている。入ってすぐヴァンサン殿下に取り入り仲良くなったそうだ。


 この前、ダンジョンで見た二人は恋人と言ってもいい雰囲気だった。

 だがヴァンサン王子には婚約者がいる。公爵家の令嬢マドレーヌ・イレール・シャトレンヌで、僕らより一学年上の二年生だったりする。

 聖女アリアーヌはヴァンサン殿下と同級生の三年生だった。


 今、バルテル王立魔術学院は、この三人の噂で揺れている。

 ダンジョンで王子と聖女を見た事もアレだが、それ以上にやばい事を聞いた僕はどうしたらいいんだろう。



「うーん、聞いたことをそのまま再現できる装置が欲しいな」

 僕は自分の部屋で魔道具を作っている。机の側には半分くらいの大きさの保冷箱を置いていて、腐りやすい素材を入れている。その向こうの棚にはいくつもの箱が並んでいて、それぞれに魔石や魔道具や素材が入っている。


 今日はニコラとジュールが部屋に遊びに来ている。田舎からオヤツの芋菓子を送ってくれたので招待したのだ。

「聞いてくれ。この前のダンジョンでレベルアップしたんだ、パクッ」

 ジュールが僕の田舎から送って来たスィートポテトを食べている。


 レベルアップは自分のステータスを意識して見ないと分からないんだ。僕は何となく前より道具の扱い方が上手くなるからそうかなと思っていた。

 でもこの魔術学院に来て、ステータスの見方を教わった。スキルとか出来る事も分かって、その点ではここに来て良かったと思っている。


「これ美味しいよ、ムグ。芋がいいのかな?」

「ああ、僕の田舎のカンショ芋だ、焼き芋もいいぞ」

「レベルアップなら俺もしたぞ、ジュール。モグ……美味いなこれ」

 ニコラも僕も食べて山盛りのスィートポテトはあっという間に無くなる。

「僕もー、モグモグ。前よりジェルを薄く延ばせるようになったんだ」

 ぴらぴらと見せびらかすと「やめろ」と手で払われてしまう。これが出来る事でもっと色々な物が作れるんだぞ。僕にとっては画期的だ。


「俺は身体強化だな」

「へえ、すごいな、地下一階に行けるかも」

「私は結界だぞ、ほら」

 ジュールが片手を上げると、そこから放射状に透明な幕が下りてキンと鳴った。

「ねえねえ、これどんな効果があるの?」

 僕たちの周りにテントみたいな透明の幕が出来ている。

「えーと、今んとこ内緒話と防御が少しだな」

「へえ、いいじゃん、僕二人に相談があったんだ。丁度いいな」



 お芋と一緒に送って来たお茶を出して飲んだ。野郎ばかりのお茶会だ。ニコラもジュールも許嫁とか、恋人の話を聞いたことがない。

 そう言えば三人で女の子の話もしたことがないな。クラスに女の子はいるけど、下位貴族の四男のニコラや、ほとんど平民の僕やジュールには目も向けられない。

 魔力持ちの女性は結婚相手としてモテモテなんだ。


「どうしたんだ、エリク」

「ねえ、聖女とルイ王子が仲が良かったらどうする?」

「三角関係か、殺し合いになるな」

 三角関係とかではなさそうな。割とあっさりサラっとしていたな。

「陰謀っぽかったんだ」

「それヤバイよ、エリク。お前殺されるよ」

 ジュールが怖いことを言う。

「王家の陰謀に巻き込まれてか? 僕は第一王子殿下に言いたい」

「止めろ、本当に殺されるから」

 ニコラとジュールが止めに入った。

「巻き込んじゃってごめん。僕どうしよう?」

「そっか、巻き込まれたのか、俺たち」

 ニコラが腕を組む。

「見捨てないでくれるの?」

「聞いた後だしな」

 ジュールは片手を顎に持って行って考える風だ。

 ああ、友達がいのあるやつらだな。君たちと友達になれて僕は嬉しい。


「何で図書館で陰謀を語るかな」

 ボソッとため息とともに出る言葉。

「あまり人がいないしな。仕事は別の部屋でやってるし、貸し出しは呼び鈴だし」

「王宮とかサロンとか使えないし、俺らこの前、図書館を追い払われたし」

 三人で考え込む。


「その、第一王子の婚約者はどんな人なんだろう」

「公爵令嬢マドレーヌ・シャトレンヌか」

 マドレーヌ嬢は僕たちより一つ上だ。上位貴族は立派な校舎で学んでいる。ルイ殿下も取り巻きもそっちで、会うのは魔法実技授業の時だけだ。

 下位貴族と平民は並みの校舎だ。それでも田舎者の僕からしたら立派だけれど。

「公爵令嬢とか、ヴァンサン殿下に近付くのよりやばくね」

「だよな」

「うーん」

 どん詰まりだ。放っておくしかないんだろうか。

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