02 バルテル魔術学院の落ちこぼれ
基本、このバルテル王国は魔術師が幅を利かせている。
王都には他に騎士学校と普通の王立学園があるけれど、バルテル魔術学院を出た者が一番優遇される。
そしてバルテル魔術学院では、戦闘で直接使える攻撃魔法の強い者が一番優秀とされ、次にそれを補助する魔法強化や属性強化などの支援魔法で、三番目が回復系魔法を使える者となる。
僕の様な攻撃魔法があまり得意じゃない奴は落ちこぼれなんだ。ましてや魔道具など生活便利道具以外の何物でもないのだった。
一応筆記試験とか魔法実技試験は受かって入学したけれど、僕の風魔法は全然伸びないし、魔道具の授業は無いし。
「どうしよう、もう帰ろうかな」
級友に「落ちこぼれ」とか「学費どろぼう」とか言われるとちょっと辛い。
「どうした、エリク」
「落ち込んでんなよ」
机に突っ伏した僕の頭をガシガシとかき混ぜてくれるのは、この学校に入って出来た友人のニコラ・ブリュネルとジュール・シャルロワだ。
魔法剣が使えるニコラは地方の男爵家の四男で、火魔法が使えるけれど剣に乗せる程度であまり強くもなくて、落ちこぼれ仲間だ。
支援魔法が使えるジュールは、海辺の街にある凖男爵の商家の次男で、水魔法を少し使えるけれど、攻撃系の支援魔法は使えなくて僕と同じ落ちこぼれだった。
僕は学院の図書館で、魔道具の書物を探しては読み漁る毎日だ。
やはりというか、お国柄この学院には攻撃魔法などの本は掃いて捨てるほどあるけれど、魔道具の本は、広い図書館の幾つにも分かれた部屋の奥の隅の端っこの埃っぽい棚に少し並んでいるだけだった。それでも無いよりましだ、読んでない本ばかりだし。
「そうだ、スライムジェルが欲しいと言っていなかったか?」
ニコラが思い付いたように聞く。
「うん、ここに防御の魔道具の理論が書いてあって──」
「あー、俺らその理論難しくてわかんねーし」
「私たちの為に作ってくれるんだろ」
「うん」
ニコラとジュールは魔道具作りにはあまり興味がないようだ。
だけど僕は作りたい。色んな物を。
「おお、落ちこぼれ三馬鹿がいる」
「目障りだ、私の前に出るな!」
「殿下の仰せだ。サッサと消えろ!」
この国の第二王子ルイ・シャルル・バルテルは僕たちと同級生だった。さすが王族、火、風、雷の魔法が使え魔力も多い。
その上、金髪碧眼で長身でガタイも良く顔も良い。騎士団長の息子や宰相の息子、公爵家の息子など取り巻きも強力だ。
その昔、バルテル家は強力な攻撃魔法で近隣諸侯を従えて王になった。それゆえ魔力と攻撃魔法こそ絶対だとしていた。多くの魔術師を養成して国の備えとしていて、攻撃魔法が使える者は大切にされ、魔術師の待遇は群を抜いている。
だが攻撃魔法が放てるほど魔力の多い者は、ほとんど貴族の家系からしか生まれない。貴族は高貴で一般庶民は使い捨て。三馬鹿の僕たちは虐げられ、落ちこぼれと蔑まれている。
どうして図書館に用事があったのか知らないが、すごすごとルイ殿下の前から消えなければならなかった。
「ふん、学費どろぼうが」
そう言ったのは誰か、宰相の息子か公爵家の息子か。
「くっ!」
少し血の気が多いニコラがこぶしを握ったが、僕はその手を掴んで、ついでにジュールの手も引っ張って、逃げるように図書館をあとにした。
「はあはあ……、ここならいいかな」
僕達は空き教室の一つに滑り込んだ。空き教室はたまにカップルが利用していて、気まずかったりする事があるから、あまりのんびり出来ないんだが。
ジュールが僕の前の椅子に座って聞く。
「なあ、エリクって走るときに魔法使う?」
「え、いいや」
呪文も何も使った覚えはないんだが、小さい頃から走るのは早かった。
「でもアレは風魔法だよね。私達も巻き込まれて速く走れるからいいんだけど」
「そう、風を纏っている感じ、ひゅんひゅんって」
ニコラまでが言う。無意識に使っているんだろうか。
「迷惑じゃない?」
不安になって聞いたらニコニコと返してくれる。
「気持ちいいから別にいいぞ」
「そう速いからね。でもニコラの言い方エロいー」
「な、何を」
「わ、ニコラ真っ赤」
「うっさいわ!」
うん、僕らは三馬鹿よりも三奥手だと思うんだ。
* * *
濃い赤毛のニコラはガタイが良くて剣技もまずまずだが、いかんせん魔力がそんなに多くない。そのせいで折角の魔法剣も長く維持できないんだ。
栗色の髪のジュールは商家だけあって腰が低くて、如才なくて見た目は軽く見えるが、真面目で勉強熱心でじっくり取り組む奴だ。
「スライムを倒しに行きたいんだけど、手伝ってくれる?」
僕がお願いするとニ人は息を吐いて頷いた。
きっと気分転換になると思うんだ。僕もスライムジェルが欲しいし。
王都から続く広大な森の一部がバルテル魔術学院の敷地に食い込んでいて、そこに小さなダンジョンがある。聞いた話では、このダンジョンのある場所にわざわざ魔術学院を建てたらしい。
森にはスライムとかハタモグラとかナキピカという弱いモンスターがいて、僕たちの勉強やら練習相手になっている。
スライムジェルは森じゃなくて、ダンジョンの中にいる少し色素の薄いスライムから採取するんだ。
森は魔物が嫌うイッチという魔物除けの植え込みで学園と隔ててあって、小さな建物と門のある守衛所で許可を貰わないと入れない。
王都の兵士二人が門番をしていて、用紙に日付と学年と名前を書いて提出すればいいのだ。たまに強い魔物が出たりダンジョンが変化したりするらしい。
「森とダンジョン一階だね」
「「「はい」」」
僕たち三人は常連なんだ。あっさり通してくれた。
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