第2話 現実を受け入れられなくてもサバイバルは始まる
職場での突然死だったので、警察の検死があった。
いや、その前に。お医者様から説明を受けて、ずっと心臓が動き出すように処置していてくれた医療従事者の人達に、妻の私が「もう十分です」と言わなきゃいけなかったのが修羅場。
どうしても受け入れられない。「無理なんですか?」って、分かりきったことを言っていた。診断してくれた先生はずっと「ごめんね」って謝ってくれていた。
皆、すごく優しくしてくれた。いろんな装置を外すのに邪魔だろうに、私があの人の手を握ったり、ぷにぷにのお腹や胸に手を当てたり、顔を撫でることを許してくれた。
ありがたかった。あの時、たくさん触らせてもらえてよかった。だって検死の後は、もう本当の死体で冷たくて固くなっちゃってたから。
あの人の温かい身体を、柔らかさを、最後に感じられたのは妻の特権ということで。子供には申し訳ないけども。
で、検死の為に一時、待つことになった際、警察官さんに「心が落ち着いたら、ちょっとお話し聞かせてください」と言われた。事情聴取しなくちゃいけないんですね、こういう場合。
私は馬鹿正直に「心が、落ち着く、ことなんて、ないと思います」とか言ってしまい、弱った顔をされてしまった。
でも本当に。心の整理なんて絶対につかなかった。
それでもやらなくちゃいけないことは山のようにあった。し、私がやらなくちゃダメなことも分かっていた。
事情聴取をすませて。お義父さんに電話して。自宅に戻って、子供の学校に連絡して、子供を迎えに行って。
子供にお父さんが死んだことを伝えるのが辛かった。
あの子はわけが分からないって顔して、それが段々歪んでいって。ものすごい辛かった。たぶん、あの子はもっと辛かったと思う。
私はあの子を抱き締めて「お母さんがいるから。お父さんがしてくれてた全部、お母さんがやるから。大丈夫だから」と繰り返してた。
二人で泣いて、手を握って、霊安室に入った。
夫の同僚の方々も、ものすごく協力してくれた。周りの人達の善意だけでしかない行動に、救われてばかりだった。
病院の関係者さんも、警察の方々も、夫の同僚の人達も、葬儀社のスタッフさん達も。
皆、善意からの行動で。ただただ優しいという、この世で最も価値があるものを私達にくれました。
あの人達の善意で、あの日、私達家族は家に帰ることができました。
心から感謝してます。
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