第21話 前世、という名の呪い 1


 <カズト視点>



 カズトは日課としている朝の訓練を行っていた。

 しかし、ここ数日は明らかに訓練にが入っていない。

 それもやむなきこと。

 なぜなら、ユーメィたち3人の勇者が行方不明であり、さらに、その捜索のためアイナが救出部隊に参加していることを知ったからである。


 ユーメィが行方不明になったと聞いた時、彼女の無事を心から願った。

 しかしその後、アイナが捜索に加わったと聞いて、カズトは居ても立っても居られなかった。


 ―――自分も参加したい。

 一度しか会っていないがユーメィも心配だ。

 でもそれ以上に、アイナの身に危険が及ぶかもしれない。それがどうしようもなく怖かった。そして、そんな状況でも何もできない自分の無力さをくやしんでいた。


 カズトが無力感を覚えるのにはわけがある。

 それは、カズトを取り巻く環境が変化したためだ。

 城塞都市アーガルムに召集されて2週間が経とうとしていた。それは、2週間ものあいだ、従者を従えていないことを意味している。

 ここに来た当初は、慣れない生活に苦労しながらも、勇者として好待遇を受けていた。

 だが、かたくなに従者を得ようとしないカズトに対し、周囲の目が変わっていく。


 ―――なぜ、従者を従えない?

 ―――なぜ、勇者の責務を果たそうとしない?


 周囲から疑惑の目で見られる。やがて疑惑の目に、侮蔑ぶべつあざけりが含まれ始めた。


 従者化する手続きが難しければ問題無かっただろう。あるいは、従者契約の破棄が不可なら。それなら、従者をすぐに決めなくても不自然ではないため。

 しかし、従者を得る方法は、お互いが契約の意志を持って性行為をするだけである。さらに破棄はいつでもどこでも出来る。

 つまり、おためしでもいいからとにかく契約してみればいいのだ。そして嫌なら破棄すればいい。

 何も難しい事は無い。ゆえに、従者を得ようとしないカズトは、ここでは異端でしかなかった。


 そうしてここでの立場が無くなっていくと、要望も通りにくくなる。

 捜索隊への参加も断られた。理由は―――従者を従えていない勇者半人前だから。

 そう言われてしまうと、何も言い返せない。

 だからと言って、従者を得ることに踏ん切りがつかない。


 心の中で、葛藤かっとうする。

 ―――アイナも従者フェイクトを得たのだから、自分もいいじゃないか。

 ―――いや、アイナと直接話すまで、自分の意志を貫きたい。

 この2つの異なる思考が、頭の中でループする。


 そうして決断できず手をこまねいている内に、アイナにがあったら……。



 抜け出せない迷路にいるような焦燥感しょうそうかんられていると、後ろから声を掛けられた。


「おはよう、カズト様」


 振り返ると、そこにはシラソバがいた。

 シラソバは、従者候補者であり、はるか遠くの地から来た異国の剣士。

 透き通るような白髪に、りの深い美人顔。立ち姿が凛々りりしく、スタイルの良さが際立きわだっている。手足の筋肉のたくましさが目立つが、それすらもシラソバの動的な美しさを引き立てていた。


「おはよう、シラソバ。最近よく会うね」


「そ、それは……えっと、たまたま、かな」


「そうか。お互い訓練に精が出るね」


 シラソバとは、訓練所でよく会う仲だ。訓練所に他の勇者たちがあまり来ないこともあって、2人きりになることもしばしばある。そうしている内に、自然と会話をするようになっていた。

 特にここ最近になって会う頻度ひんども増加して、ほぼ毎日会っている。


「カズト様、何か悩み事でも? 遠くから少し見ていたが、剣が乱れていた」


「いや……、なんでもないよ」


「そうか……」


 うれいを帯びた笑みを浮かべるシラソバ。

 心配を掛けさせてしまったのかもしれない。

 だが、それだけはなく、シラソバ自身にも悩みがあるのかもしれない。


「シラソバこそ何か悩みとかあるのか? 元気無さそうだけど」


「―――悩み、か。そうだな……。実は、気づいていると思うが、従者を外された」


 それは気づいていた。神核や疑似神核があると、その人物にはがある。それは直感的なものであやふやな感覚だが、無視できない威圧感を自然とかもし出しているのだ。

 その存在感が、今のシラソバには無い。

 一流の剣士としてのすきの無い立ち姿は、敬意すら覚えるほどに素晴らしい。

 だが、疑似神核を失ったシラソバは、生物としては矮小わいしょうなものに感じてしまう。


って、シラソバほどの剣士が従者契約を破棄されるなんて信じられないなぁ……」


「カズト様だけなんだ。私を剣士として見てくれるのは……」


 くやしげな表情のシラソバ。そこにはあきらめの感情も含まれているように感じる。

 そして、切羽詰せっぱつまった様子で言ってきた。


「カズト様! お願いだ! やはり私を従者にしてくれないか?」


 俺は申し訳なさでいっぱいだった。

 これで3度目だ。シラソバから以前よりお願いされていた。


「―――ごめん」


「なぜだ。私の何が駄目なんだ! そんなに私に魅力が無いのか? これでも行為自体はしょっちゅう求められるんだ。まあ、結局契約はしてくれなかったり、契約してもすぐに破棄されるんだが……」


「シラソバは、それでいいのか?」


「いいわけないだろ! あ、いや、いいんだ。もうそういうものだと割り切っている。性行為を頑張れば、疑似神核が少しだけ強化されるんだ。それからは私からも積極的にしているよ。いろいろ覚えさせられたしな……」


「強くなるために割り切る、か……」


「ああ。だから、1回だけでも駄目か? カズト様から与えられる疑似神核を確かめてみたいんだ。それに―――カズト様は他の勇者とは違う気がする。私の剣の腕を認めてくれて、会話していてもよこしまな目で見てこない。そして、優しくて、努力家なのもいい……。私はカズト様とだったら、性行為もきちんと受け入れられると思う……」


 シラソバが、すがるような目で真っすぐと見てくる。

 その真剣な思いに対し、俺はきっぱりと拒絶しようとした。

 だけど、客観的に見てどうなのか、と考えた。

 もし、俺の従者枠が埋まっていたら、シラソバもあきらめていただろう。

 でも、俺には従者がいない。枠が空いている。

 その状況でためしもせずに断ることは、一般的には正しいが、勇者としては逆に不誠実なのではないか、と思ってしまった。


 ―――かつて、アイナもこうやって悩んでいたのか……。


 そして最終的にアイナは決断したのだろう。なら、俺も―――。



 シラソバへの返答に悩んでいると、そこへクラエアが駆け足でやってきた。


「カズト様。ショウ様がお呼びです」


「ショウが!?」


 ショウは、村で成人の儀に参加した時、一緒に神核を得た人物。

 アイナの知り合いだったか。だが、あの日以降、会っていない。

 俺が城塞都市に来てからも、遠征に行っていたらしく入れ違いになっていた。


「はい。おそらく、北の樹海への捜索部隊の話かと思います。カズト様は、都市の役人から参加を拒否されておりましたが、ショウ様はこの捜索部隊のリーダーです。もしかしたら―――」

 

「なるほど、わかった。ショウに会わせてくれ。参加できるよう直接頼んでみるよ」



 その後、ショウと面会し、捜索部隊への参加が決まった。

 翌日には出発し、アイナたちよりも2日遅れで北の樹海へと向かうのだった。







 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 




 今回は、この作品の設定などを一部解説します。

 作中で明示できる機会が無いかもしれないので、本編では語られていない裏設定みたいなのが一部存在します。

 なので、少しネタバレ要素があるかもしれません。


 本編のストーリーのみを読みたい方は、この部分は飛ばしてもらって大丈夫です。



【人の領域、神の領域 について】


 をイメージすると分かり易いかなと思います。


 下の階がの領域。上の階がの領域。と仮定すると、

 上の階(神の領域)へ行くことのできる権利を得た者=神核保有者 となります。

 下の階から上の階へ階段を上っていく最中が、神核を強化している段階です。


 神核を強化していくと、徐々じょじょ


 とは、

 ①細かい事に無関心になる。どうでもいい事を覚えていられなくなる。

 例)興味の無い人物をすぐに忘れる。

 ②感性が人とかけ離れていく。人としての道徳心などが無くなる。

 例)目的を達成するためなら、無関係の人がいくら死んでも構わない。

 ③人間とは身体の構造が変わる。

 例)食事や睡眠が必要無くなっていく。寿命が延びる。


 最終的に、神の領域に到達する頃になると、『不老不死』『感情の機微きびが無くなる』『欲望(目的)に忠実なマシーン』のようになっていきます。

 そうなると、必要な時以外は、まともな会話も出来なくなったり、ただそこにいるだけの存在になったりします。勇者アーガルムがその代表例です。



【神核の強化について】


 RPGなどのゲームで例えると、

 神核の強化=Lv(レベル)を上げる ことと同じです。


 神核を強化する(レベルを上げる)ためには、が必要です。


 この経験値は、本作ではで獲得することができます。

『努力』『経験』『学習』など、多岐たきにわたります。

 具体例を挙げると、修行して身体を鍛える、書物から知識を得る、など。


 そして、ことでも経験値を獲得できます。

 また、してことも獲得手段です。

 他にもありますが、それは今後のストーリーで明かされます。



【従者枠について】


 神核の強化=レベルを上げる と例えるなら、

 従者枠が増える=一定のレベルに到達する と表現できます。


 例えば、

 レベル1~19までは、従者枠1人。

 レベル20~29までは、従者枠2人。

 レベル30~39までは、従者枠3人。

 のような設定です。


 よって、従者枠が多い=レベルが高い=強い

 みたいな解釈になります。



【勇者にとって、従者を得るメリット】


 これもゲームで例えると、

 従者枠が増える=勇者のが増える と言えます。


 ここで言うとは、ステータスを増加できるアクセサリー みたいなものだととらえてください。


 従者を得ると、その従者の力の一部が勇者に反映されます。

 具体的に言うと、能力値1000の勇者が従者を1人得ると、能力値に+200される みたいなイメージです。

 なので、勇者にとって『従者を得る』ということは、ステータスを増加してくれるアクセサリーのような物を装備した、となります。


 よって、勇者は、

 ①少しでも質の高い従者が欲しい。(良い装備の方が能力を上げてくれるから)

 ②従者枠を増やしたい。(装備できる数が増えた方が能力をより上げられるから)

 と考えています。


 もちろん強力な従者ほど、仲間としても頼りがいがあるため、勇者自身の能力上昇以外での意味でも良い従者を求めます。



疑似神核ぎじしんかくの強さ】


 疑似神核の強さは、


 勇者の神核の強さ × 勇者との度合どあい で決まります。


 勇者との結びつき度合とは、勇者との共鳴率とか、シンクロ率とかでも表現できます。要は、、ということです。


 心の結びつきは、愛情だけでなく、信頼や、主従、依存などでも満たされます。 なので、愛が無くても、長年の信頼関係を構築できているとか、明確な主従関係があるとか、重度の共依存きょういぞん状態である、とかでも結びつきは強いです。


 体の結びつきは、性行為の相性です。これは個人差が大きいです。ただ基本的には、関係を重ねれば重ねるほど結びつきが強くなります。


 以上のことから具体例を挙げると、

 神核3000の勇者 × 結びつき30% = 疑似神核900の従者

 神核2000の勇者 × 結びつき60% = 疑似神核1200の従者

 みたいな強さの疑似神核を得ることになります。



 ※作中の登場人物で、この仕組みを。なので、各々おのおのが試行錯誤しながら従者の強化に努めています。また、一部の解釈を登場人物もいます。



 ※勇者の神格は、経験値を得ることで強化(レベルアップ)しますが、

 従者の疑似神核は、経験値とかレベルという概念は存在しません。

 疑似神核は、勇者との性行為により獲得or更新でしか強化されません。

 従者自身による強化要素は無いです。すべて勇者から与えられるだけです。


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