勇者システム―転生後の運命を受け入れる者、翻弄される者、あらがう者―
ふじか もりかず
勇者システム
第1話 プロローグ
「な、なんということだ……」
儀式を取り行っていた司祭が、
うら若き男女が、教会に集められていた。
年齢は15歳から18歳までの若者たち。
数年に一度のペースで行われる『成人の儀』。
その終了間際に異常事態が発生していた。
「これは……
司祭の震えた声が、かすかに漏れる。
本来は、ただ成人を祝う式典でしかなかった。
この地に根付く宗教『アーガルム教』。
300年以上前に活躍し、今なお数々の
その勇者が、
そこに人が集まり、やがて都市を形成し、この地の宗教としてあがめられている。
そんなアーガルムが
神核を持つ者は、
人とは異なる存在。人として一つ上の存在へと昇華する。
言い換えるなら―――『神へと近づく者』。
この世界ではまれに神核を持つ者が現れる。
そして、それと共に訪れる危機―――『厄災』。
その厄災に立ち向かうために現れる神核保有者―――それを人々は『勇者』と呼んだ。
「だ、だが。こ、これは……」
齢60を超える司祭にとっても、神核保有者を見るのは初めてだった。
だが、人生の大半を教会とその教義のために費やしてきた司祭なら、突然現れた神核保有者を目の前にしても、多少驚く程度で済むはずだった。
むしろ新たな神核保有者を自身の手で発見した喜びで、神に感謝していただろう。
しかし、司祭の顔には困惑と恐れしかない。
なぜなら―――。
「4人。4人同時だ……と。な、なぜだ? どうなっている?」
成人の儀はただの通過儀礼。この地に生まれた者の
にもかかわらず、成人の儀が終了したと同時に、集められた男女の中から光り輝く者が現れた。
―――問題はそれが4人もいること。
いくらなんでも多すぎる。1人でもまれなのだ―――それが4人も。
4名の男女が、光に包まれている。
身体の周りをオーラが覆うように。
オーラの色は青白い。
そのオーラに包まれた姿は、司祭の記憶する神核保有者の特徴そのものだった。
「と、とにかく、成人の儀はこれにて終了とする。君たち、い、いや、あなた方はこの場に残ってください。他の者は退出しなさい! あっ、この事は他の人には言ってはなりませんよ。正式な発表があるまで村の方々を不安にさせてはいけません。いいですね」
困惑する若者たちに対して、司祭はまくしたてるように言い放つと、強引に教会から追い出した。
多くの者に見られている。どうせ口止めしたところで無駄だろう、と考えながらも、司祭は事態の把握と収拾に努めようとしていた。
教会に残ったのは司祭と成人の儀を補佐していた従司祭が1人、そして神核を保有していると思われる4人の若者。合わせて6人。
さっきまで4人の若者たちは青白い光を放っていたが、いつのまにか光は消えていた。
困惑した表情を浮かべる司祭と従司祭。
それ以上に4人若者たちのほうが戸惑っていた。身体は震え、目に涙を浮かべている者もいた。
「わ、わたしたちどうなるんですか? どうして……。わたしだけ―――」
4人の中で一番小柄な少女が言う。目に涙を浮かべていた子だ。今では涙がこぼれ落ちて頬を伝っている。
怒られるのではないか、と彼らに誤解されていたのだ。
「違う! 違います。あなた方を
高齢の司祭が若者たちに尋ねる。その態度は、普段の若者に対するものではない。まるで目上の者に対してのものだった。
顔を見合わせて黙る4人。
最初司祭は、神核を知らなくて黙っているのか、と思った。
だが彼らの様子から、そうではない、と察した。
なぜなら彼らの様子は、何かを言いたいけれど黙っている、そんな雰囲気だったからだ。
しばらくして、最も背の高い男性が答えた。
「知っているぜ、司祭様。勇者の
「合っていますが、お父様の説明には補足が必要です。神核を持つ者を神核保有者と言います。そして神核保有者が現れる時には、必ず厄災が起きると言われています。その厄災が具体的に何なのかは分かりません。ですが、その厄災から人々を救うのが神核保有者だと。
司祭が神核と勇者の話をすると、4人の若者の中から手を挙げる者がいた。
手を挙げたのは、美しい女性だった。
長い黒髪と切れ長の目が印象的で、その黒髪は室内であるにもかかわらずしっとりとした光沢を帯びており、その目は内に秘めた意志を反映するかのように真っすぐ前を向いていた。
背筋を伸ばした立ち姿が立派で、発育のいい身体つきも相まって20代の大人の女性と言われても信じてしまうほどだ。
「なんでしょうか?」
「司祭様。先程の成人の儀が終わる頃、私たちは青白い光に包まれました。これは、『神核を得た』ということでしょうか?」
「ええ、そうです。その説明をしようと思っておりました。話が早くて助かります。もしや、ご両親などからお聞きになっておりましたか?」
「はい、詳しくは知りませんが。それでですが―――その神核を得た際、何か他に変化とかがあるのでしょうか……?」
黒髪の美しい女性が司祭に問う。その瞳は何かを試すようだった。
「他に変化、ですか……。何でしょう。我々もアーガルム様以外の神核保有者を見るのは初めてでして……。教会本部に保管されている文献を確かめてみないことはなんとも……。その―――青白い光に包まれる以外の変化が、何か他にあったのですか?」
「い、いえ、そういうわけでないのですが……。ただ、そうですね。光に包まれてから時間が経った今になって気づいたのですが、なんだか力が沸き上がっているように感じます。まるで自分の体じゃないみたいです」
黒髪の美しい女性は何かを隠しているようだったが、言葉を交わしていた司祭とそばに控えていた従司祭は気づかなかった。気づいていたのは他の若者3人。他の3人は何かを言いたそうにしながらも口を閉ざしていた。
「力が沸き上がる感覚ですか。それはおそらく神核の影響でしょう。神核保有者は通常の人間を遥かに
司祭の説明を聞いて1人の男性が反応した。
その男性は、先ほどの4人の中で最も背の高い男性だ。
「へぇ、それはすごい。勇者か―――楽しみだな、アイナ」
黒髪の美しい女性は アイナ というらしい。アイナは素っ気なく答える。
「別にそんなことはどうでもいいです。それよりも、アイナって呼び捨てにしないでください」
アイナが呼び捨てにするな、と言った瞬間、背の高い男性は大笑いする。
「おいおい、アイナでいいだろう。それとも昔の呼び名でいいのか?」
背の高い男がそう言うと、アイナはハッとした表情になる。
そして、目を細め不機嫌な態度で言い返す。
「そうね。いいわ、アイナで。私もあなたのことは ショウ と呼ぶことにする」
「ああ、またよろしくなアイナ」
2人のやりとりを見ていた司祭は、今更ながら名前を聞いていないことに思い至る。
「そうでした。皆さまのお名前を聞いておりませんでした。よろしければお聞かせ頂けますか」
司祭に言われ、4人の若者たちはそれぞれ自己紹介をする。
背の高い男性は―――。
「オレの名前は、ショウ。18歳だ。父は商人でな、仕事の手伝いで初めてこの村に来て、たまたま滞在してただけなんだ。普段は城塞都市に住んでるぜ。今日ここで成人の儀があると聞いて、ついでに受けに来ただけなんだが……こんなことになっちまって驚いてる。よろしくな」
小柄な少女は―――。
「わ、わたしの名前は、カコ です。15歳です。母と二人で暮らしています。その、母は病気で……。だからっ、わたし、頑張ります。力があるなら……それで母を楽にさせてあげられるなら―――頑張ります」
黒髪の美しい女性は―――。
「私の名前は、アイナ。17歳です。両親は冒険者です。神核保有者に選ばれたことに感謝します。それと、隣の彼とは―――幼馴染です。厄災がどういうものなのか分かりませんが、彼と一緒に乗り越えていきたいと思います」
そう言って、アイナは自己紹介が最後になった幼馴染の方を向く。
アイナからの目配せを受けて、幼馴染の男の子は口を開いた。
「俺の名前は、カズト。16歳。うちの両親も冒険者です。俺も冒険者を目指しています……よろしく」
自己紹介の後、今後の予定を司祭は伝えた。
近く城塞都市に呼び出されるだろう。領主や最高司祭との面会もあるだろう。
両親にだけ今日の事を話すこと。それ以外にはまだ言わないように。
また、村からは出ないで待機して欲しいことも伝えた。
そして、今日は解散となった。
同時に現れた神核保有者の4人。
この異常事態に、司祭は直ちに城塞都市の教会本部へと連絡を送る。
―――だが、この異常事態の規模は司祭の想像以上のものだった。
本日行われた成人の儀は、城塞都市アーガルムの周囲に点在する村の一つでしかない。
当然、他の村や城塞都市内でも成人の儀は順次行われた。
そして続々と見つかる他の神核保有者たち。
―――最終的に『31人』もの神核保有者が発見された。
では、その規模に対応するほどの厄災とは何か―――?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます