星の砂、みつけたよ
純川梨音
星の砂、みつけたよ
「今夜も星がきれいだね、トキくん。」
「うん。」
うつむきがちに答えるトキくん。
トキくんは太陽の光に当たると皮膚が焼けるように痛くなってしまうため、いつもお母さんと夜に散歩します。
ホントは夜でなくて昼間に散歩してみたいトキくんですが、できないことはわかっているからお母さんには言いません。
途中、いつもの公園につき、砂場で遊ぶトキくん。
トキくんは砂をかき集めて砂の城をつくるのが大好きです。
今日もペットボトルの水を使って砂を固めてお城の土台をつくります。
だけど、水で固めても砂のお城の大きさには限界があって、トキくんはさすがに飽きてきていました。
そこへ、か細い声が聞こえてきました。
「ねえ、トキくん」
「え?」
声のする方は木々が生い茂っています。
首を傾げるトキくんにもう一つ、甲高い声がしました。
「下だよ下。そのまま目線を下に下げて、木の根本を見て。」
見ると木の根っこのところに青白い小さな光を提灯のように持つ小人が2人立っていました。
トキくんは驚きながらも、同時に自分がワクワクしているのがわかりました。
「僕たちは星の子と呼ばれる種族なんだ。僕たちの世界を少し見せてあげるよ。目をつむって。」
「でも、お母さんが」
お母さんは公園の入り口の近くで横を向いて座っています。いつもはトキくんが振り返ると必ずと言っていいほど目が合うくらいなのに、一向にこちらを向く様子がありません。
「時間を止められるんだ、大丈夫。少し僕たちと散歩しよう。」
目をつむるトキくん。すると、目の辺りを小さな手がコショコショと触っているのを感じました。
「いいよ」
目を開けるとそこは、いつもと違う公園が広がっていました。
確かに同じ公園のはずなのに、木の葉っぱや花たちが青白く光っているのです。まるで水色の光が一面に咲き誇っているような優しい光景にトキくんは立ち尽くしてしまいました。
「さあ、星の砂を見せてあげるよ。砂で遊ぶのが好きなんだろ。いつも見てたよ。」
「私たちも日の光に弱くてね。大きな人たちの中にも日光に弱い人がいるんだなって思ってたの。」
ピョンと跳ねる2人。小人たちはジャンプするのが得意なようで、軽快に飛びまわってトキくんを案内します。
小人たちの秘密の道は、公園の端っこの、青白い光が集まったところから伸びており、そんなところに道があるなんてトキくんはビックリしました。
小人たちの足取りは早く、駆け足になるトキくん。木々の光のゲートをくぐるたび、胸が高鳴っていきます。
「ここだよ」
着いた先でトキくんは息をのみました。
木々が開けたところに、光の砂場が広がっていました。手にとってよく見ると、いつも触っている砂粒とは異なる、小さな雪の結晶のようなカタチをしています。
思わず両手にすくって宙へ放ってみるトキくん。
結晶は砂よりも軽く、フワッと舞いひろがり、ゆらゆらと地面へ落ちていきます。
今度はかき集めてギュッと固めてみるトキくん。公園の砂と違い、水がなくても簡単に固まります。
「星の砂って言うんだよ。」
「昼間、太陽の光を浴びた植物たちは夜に青白い水滴を出すの。私たちはそれを集めて結晶にして、いろんなことに使うのよ。」
「わあ~!」
すっかり夢中になり、星の砂のお城をつくるトキくん。小人たちも混じって、小人たちが入って遊べるくらいの大きなお城ができました。
「僕、太陽の光って、触れると良くないものとしか思ってなかったけど、こんなにキレイな結晶にもなるんだね。」
「そう。僕たちにとっても直接触れることは叶わない太陽の光だけど、その星のエネルギーは確かに僕たちに恵みをもたらしてくれるんだよ。」
最後に小人たちは、星の砂を小瓶に詰めて、トキくんにプレゼントしてくれました。
公園に戻ってきたトキくん。その頃には青白い光がうすれ、いつもの公園の姿に戻りつつあります。
「じゃあね、トキくん。」
振り返るともう2人の小人の姿は見えなくなっていました。
「トキくん、もう砂のお城はいいの?」
突っ立っているトキくんにお母さんの声がかかります。
「うん。大きいのができたから。」
帰り道、星を見上げながらトキくんはポケットの中の小瓶を握りしめます。いつも見ているはずの星も、今夜はちらちらと笑っているようでした。
星の砂、みつけたよ 純川梨音 @Sumikawa_Rion
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