うちの妹がいつの間にかヤンキーでした・・・。

関口 ジュリエッタ

第1話 妹がヤンキーになってしまった!

 ブラック企業の残業から帰って来た剣崎稔けんざきみのるは夕食のカップラーメンを食してしばらくテレビの報道番組を見て一息してると、いつの間にか深夜一時を回っていた。

 寝る前に一息つきたいと思いポッケからたばこの箱を取り出すと中身は空だった。


(しょうがない夜風よかぜも当たりたいし、買いに行くか・・・)


 重い腰を上げて散歩ついでに稔は、散歩ついでにたばこも買いに出掛けるのであった。

 人気ひとけの無い寂しい夜道を一人寂しく歩いていると、何やら聞き覚えのある少女の声が、目の前の公園の方から荒々しい高い声で聞こえる。

 公園に行くと何やら大勢のヤンキーの群れ――ざっと百人近くが一人を囲むように集まっていた。

 稔はバレないように忍び足でヤンキーの群れの近くまで寄ってみると、思いがけない光景に衝撃を受けてしまう。

 なんとケンカ腰で喋る少女は稔の妹の剣崎けんざきルイだった。


(どうしてルイの奴がこんな所に!? しかもあんな格好をして!)


 自分が知っている妹は清楚で真面目の可愛らしいこのはずなのに、稔が見ているルイは特攻服に身を包んだ金髪で昔の面影がまるでない。

 二代目と刻まれている特攻服をルイが着てるという事は、どこかのレディースを仕切ってる総長だと見てわかる。

 ヤンキーの群れの中心に立っている角刈りの黒い特攻服に身を包んだ厳つい男は、ルイと何やら話をしている所を見ると、間違いなくこの中のトップだと思う。

 耳をこらして、稔は二人の会話を聞く。


「おい、ルイ! お前いい加減に俺の女になれよ」

「ふさけんな! 誰がお前みたいな野蛮な男の女になるか!」

「野蛮なのはお前も一緒だろ。お互い野蛮同士仲良くしようぜ」


 ヤンキーのボスはルイの方に歩み寄ると、ルイはヤンキーのボス目掛けて鋭い足蹴りを放つ。


「なっ!?」

「おいおい危ないな」


 間一髪、ヤンキーのトップはルイの足を掴み、そのまま自分の方へと引っ張ると、ルイは体勢を崩す。

 体勢を崩したルイの身体を掴んだヤンキーのトップはそのまま自分の身体の方に抱き寄せる。


「やめろ! 離せ!」

「嫌がるルイの表情、たまらねぇなあ。お前の仲間は全員この俺がぶちのめした。もう勝ち目はないんだから抵抗するなよ」

「うるせぇ! 仲間がいなくてもお前ら全員ぶちのめしたやるよ!」


 舌なめずりをしながらルイの胸をヤンキーのボスは触ろうとしたとき、

「ちょっと待て」


 胸を触ろうとしたヤンキーのボスの腕を稔は思いっきり掴み阻止をする。


「誰だよてめぇ!」

「俺はこいつの兄だ。大人しく妹の身体から離れろ」

「……アニキ、どうしてここに!?」

「たまたまさんぽついでにたばこを買いに出掛けたら、この状況に出くわしたんだよ」

「アニキには関係ないから引っ込んでろ!」


 強がるルイだが、身体中震えている姿を見たら兄として引くわけには行かない。


「お前みたいな弱い奴がでしゃばるな!」

「あっそ」


 稔はヤンキーのボスに疾風ような早さで拳を振り上げ、そのまま上空へと吹き飛ばすと、宙を舞ったヤンキーのボスはそのまま地面に激突して身体半分が地面へとめり込んだ。

 両足をピクピク痙攣するヤンキーのボスは再起不能。

 その光景を目にしたヤンキーの群れは恐怖のあまり一歩下がる。


「アニキがこんなに強いなんて……」

「待ってろルイ。すぐに周りのザコ共を片付けるから」


 稔は両腕の袖をまくり上げ戦闘モードになると、一人のヤンキーが稔の腕に掘られている右腕に黒のドラゴン、左腕に赤いドラゴンのタトゥーを見て何かを思い出し、口ずさむ。


「あいつもしかしてじゃないか!?」


 その言葉を聞いた不良達全員が震え上がり腰を抜かす者や、恐怖のあまり尿を漏らす者まで出た。

 実は稔は昔、この都内を仕切っていた『ドラゴン』というヤンキーグループの総長で、黒紅くろべにりゅうと恐れられていた伝説のヤンキーだった。

 片っ端からヤンキーの群れを瞬く間に殴り倒し、十分も掛からない間に倒すのであった。


「アニキ~!」


 背後から妹のルイが抱きついてきた。


「怪我はないか?」

「うん。アニキ――いや、お兄ちゃんのおかげだよ」


 ルイの頭を撫でて、二人は公園から去る。


「まさかお兄ちゃんが伝説のヤンキーだなんて」

「伝説と名乗れるほどじゃないよ。ルイもヤンキー卒業して昔みたいに真面目になれよ」

「うん。だけど私の条件を呑んでくれたら言うこと聞いて上げる」

「条件?」

「うん。私、お兄ちゃんの暮らしてるマンションに同居する。それが条件」


 思わず夕食で食べたカップラーメンを吐き出すところだった。


「別な条件にしてくれないか?」

「ダメ。そもそもお兄ちゃんが私に相談もなく、勝手に実家を出て一人暮らししたから私がグレたんだよ。だから男としてちゃんと責任を取るべき」


 妹がグレたのは、まさか自分の原因だと初めて知った。


「…………わかったよ、その条件を呑んでやるから真面目になれよ」

「うん」

 真面目だったルイをヤンキーへと変えてしまった原因が自分のせいだと知ると、罪悪感に襲われ稔は、渋々ルイの条件を呑むことにした。


 こうして稔はコンビニでたばこを買い、ルイと一緒に自分が住んでいるマンションへと帰るのであった。 

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