星空を見上げていたはずが、病院の天井を見上げていました ~元カノの不幸を願ったら、自分に災難が降り掛かりました

藤瀬京祥

星空を見上げていたはずが、病院の天井を見上げていました  ~元カノの不幸を願ったら、自分に災難が降り掛かりました

 ついていない時はとことんついていない、真﨑さなざき尋人ひろとはつくづくそう思った。

 付き合ったばかりの彼女とはたった一ヶ月で破局。

 それも……


「浅川さんのほうが尋人よりお金持ってるし、格好いいし」


 そんな理由で振られたのである。

 せめてもの幸いだったのは、二股ではないということ。

 必ずしも彼女の新しい恋が実るとは限らないが、せいぜい浅川なにがしとの仲が上手く行かないように祈るぐらいは許されるだろう。

 そう思っていた尋人だったが、どうやら許されなかったらしい。


(だからって罰当てるのは違うくね?)


 人を呪わば穴二つ……というけれど、今回ばかりは許されてもいいのではないかという、ちょっとした救いすら許されないほど日頃の行いが悪かったのだろうか?

 尋人には身に覚えがなかったけれど、そういうことは本人にはわからないもの。

 事実、とんだ災難が尋人を襲ったのである。


 まさに彼女から別れを告げられたその日、寝付けなかった尋人は気分転換に深夜散歩に出た。

 それなりに忙しい日々を送っていてすっかり忘れていたけれど、深夜の空にはそれなりに星が見えるのだということを思い出しながら。

 そしてついうっかり昼間、彼女に言われたことを思い出す。


「浅川某にあいつが振られますように」


 たまたま見つけた流れ星にそんな願いごとをして、数秒後、もったいないことをしたことに気づく。


(もっといいこと願えば良かったっ!)


 そんな後悔をしながらも、少しひんやりとした深夜散歩を続けようとした時、それと遭遇した。

 倒れている人影を見つけたのである。

 ただ尋人の記憶はここまで。

 次の記憶は見知らぬ場所だった。


 見上げる真っ白い天井を天井と認識できないまま、ぼんやりと眺めていると見知らぬ人に話し掛けられる。


「気がつきました?」


 それが男性看護師であること、ここが病院であることに気づくまで時間は掛からなかった。

 だがどうして自分が病院にいるのかはわからない。

 しかも説明に現われたのが、看護師でもなければ医師でもない。

 では誰かと言えば、問うまでもなく相手は身分証を提示してくれる。


「警察……?」

「少しお話聞かせてもらえますか?」


 この瞬間に意識を失う直前のことを思い出す。

 深夜の散歩、彼女の別れの科白セリフ、流れ星に掛けた願い、そして倒れていた人影……。

 他にも、例えば見上げた空に意外なほど星が見えたことや、夜と深夜では町の暗さが違うことなどなど、沢山のことが一瞬で思い出された。

 その膨大さに、機能を停止していた脳の処理能力が追いつかなかったのか、酷い頭痛を覚える。

 思わず尋人が顔を歪めると、提示したばかりの警察手帳をしまいかけた刑事の一人が案じるように声を掛けてくる。


「大丈夫ですか?」

「……あの人……あの倒れていた人……その……」


 倒れている人影を見たことまでは思い出したけれど、女性だったか男性だったかもわからず、そもそも倒れていた理由もわからない。

 それこそ生きていたのか、死んでいたのかも……。

 だからなんと訊けばいいのかわからず言い淀むところに、刑事たちから質問を発する。


「被害者とはどういった関係ですか?」

「被害者……って誰ですか?」

「では質問を変えましょう。

 どうしてあの場所に?」

「それは……」


 なぜかこの時、尋人の脳裏に浮かんだのは彼女のことである。

 昼間別れを告げられた時の姿、その声、その言葉を思い出す自分に (俺、女々しい……) と内心で嘆きつつも、やはりこの部分は話したくなかったから、流れ星に願掛けしたことも合わせて隠しておく。

 刑事二人には、仕事で嫌なことがあって寝付けなかったからという理由で、気分転換に深夜散歩をしていたことにする。

 そして偶然倒れている人を見掛けたが、そこから先の記憶がないこと。

 気がついたら病院にいたということを順に話す。


「あの、そもそも俺、どうして病院ここに?」

「本当に覚えてないんですか?」


 少し疑うような刑事二人の視線、その理由はすぐに明かされる。

 まず倒れていた人物は女性で、尋人以外の通行人から受けた通報で警察が駆け付けた時、すでに事切れていた。

 まだ検死の最中で死因ははっきりしないらしいが、おそらく刃物による刺殺。

 なぜか尋人は頭に傷を負った状態でその近くに倒れていたというのだが、問題なのは手に、凶器と思われる刃物を持っていたことである。


「はっ? ……え? 待ってください。

 ひょっとして俺、疑われてる……とか?」


 人を呪わば穴二つ


 別れたばかりの彼女の不幸をただ願うだけでなく、流れ星にも願掛けしたけれど、まさかこんな風に我が身に返ってくるとは誰が予想しただろう?


「ちょっと待ってください!

 ……その、俺、本当に記憶がなくて……」


 それこそ頭部に傷があり数針縫ったということだが、殴られたことすら尋人の記憶にはなかった。

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