第4話 ログ視点・前夜

 その日、僕の平穏な生活は唐突に破られた。

 盗賊の集団が僕の村を襲撃したからだ。

 自給自足を営んで、あまり外との交流をしない村は多い。僕の住むドノゴ村もそういう何の変哲もない村だった。もちろん近隣の村との交流はあるけれど、普段から行き交うというほどのことはない。

 村を出れば危険な魔獣や盗賊達がいる。必要がない限り、頻繁に外に出ようとはしないのが普通だ。

 村にも盗賊に対する備えはある。でもやっぱり限界はある。ほとんどが農民だし、大人数で襲われたら、追い返すのは難しい。

 それでも僕らの村はとても盗賊に強い村だった。それは僕の父さんと母さんのおかげだ。

 父さんと母さんはもともと冒険者だった。この村に住み着いてからは、いろいろと村の人たちに教えて、村の防衛力を上げたみたいだ。細かいことはよくわからないけど。


 緊急事態の鐘が鳴ると、父さんと母さんは、真っ先に家を飛び出していった。僕らの家は村の入り口そばにあるのでこういうときの反応は早い。

 僕とレクシアは、お互い身を縮めて家の地下蔵に隠れた。だんだん外が騒がしくなる。外の様子はわからないけど、周りの状況がどんどん悪化してきている事はわかった。

 それから僕らはじっと合図を待っていた。外は静かになったり騒がしくなったり。でも静かになったからといって、僕らは不用意に外に出たりはしない。そう教えられている。

 どれくらい経ったのだろう。ノックがなった。初めから教えられていたサインどおりだった。僕らは地下蔵から這い出た。

 やはり父さんと母さんだった。差し込む光で、もう日が沈む頃だとわかった。


 僕らは旅支度をして家を出た。逃げながら父さん達の話を聞く。

 厄介な盗賊が来たので、一度村を捨てることにしたみたいだ。こんなことは初めてだ。父さん達は村の住民を全て逃がし、逃げ遅れた人がいないか確認していたら遅くなったようだ。何しろまともに戦えるのは父さんと母さんだけ。全然手が足りなかった。

 僕らが最後みたいだ。急がないといけない。追い返した盗賊達はいつ戻ってきてもおかしくないから。

 僕らは身を伏せながら父さん達に促されるまま村を出た。


 村の裏から森に出て少し進んだところで、先行していた母さんが倒れた。

「きゃっ」

 父さんが駆け寄ると、挟み罠に足を取られている。父さんは剣で罠を外した。母さんは魔法で自分の傷を治す。遠くに光が見えて、がさがさと人が集まってくる音がした。

「事前に罠を仕掛けていたのか」

 父さんが悔しそうに言う。

「みんな無事に逃げ切れたかしら」

 母さんは緊張した面持ちで言った。村からすぐ出た場所にあった罠だ。父さん達は村にいたから、逃がした人たちの動向はわからないのだと思う。

 父さんの判断は速かった。

「ログ、今から母さんが南に光を飛ばす。その中をレクシアと走り抜けろ。そうすれば罠にはかからない。レクシアを守るんだぞ」

「父さんは?」

「いいから行け」

 父さんは荷物を僕に押しつけた。長い呪文を唱えていた母さんは、手を前に伸ばし光を放った。その光はまるで通路のようだった。

「早くしろ!」

 僕はレクシアの手を引いて走った。レクシアは抵抗しようとしたけど、僕は手を放さず全力で走った。

「お母さーんっっ」

 レクシアの声が後ろに響いた。


 あの魔法がなんなのかは僕にはわからない。でも誰も追ってこなかったし、罠にも引っかからなかったから、結界のようなものなのだと思う。

 光の通路がなくなっても僕らは走った。レクシアはもう抵抗しなかった。ただ、小さいレクシアには限界がある。

 レクシアが動けなくなったところで僕は立ち止まり、僕らは夜が明けるまで木陰に隠れて眠ることにした。

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