やっとわかった

高山小石

いつものこと

 どこかひやりとした風を感じて目を開けると、星空の下、人気ひとけのない道路にぽつんと立っていた。

 あぁまただ。

 最近、気づいたら真夜中なのに家の外にいる。

 寝巻き姿じゃなく、靴もき外行きの恰好をしているのはありがたいが、着替えた覚えはないあたり、夢遊病なのかもしれない。

 最初は驚いてすぐに家に帰った。

 いや、帰ろうとした。

 暗いだけでよくよく見知った場所だ。無意識でも歩いて来れるくらい近所のはずなのに、帰れなかった。

 正確には、この角を曲がれば家が見えるというところまでは行けるのだが、なぜかそこで意識がうすれ、気づけば最初にいた場所に戻っている。

 早くあたたかい布団に包まれたくて、何度も帰路につくもののその都度もどされ、どの道でも家にたどり着けなかった段階で、帰ることを諦めた。

 途中で意識がなくなるからでもある。

 どうも昼の自分には、この真夜中の記憶が残らないようなのだ。

 もしかしたら自分自身は家で寝ていて、ここにいる自分は幽体離脱状態なのかもしれない。

 そう考えるようになってからは、家に帰ろうと躍起やっきにならなくなった。真夜中の散歩を楽しもうと思ったのだ。

 開き直れば空も飛べるようになり、静かで暗い世界を文字通り飛びまわった。家には戻れないがどこにでも行ける。

 休憩場所は屋根の上や電柱。電線の上を歩いたり、小鳥しかとまれないような細い枝に座ったりできるのは愉快だ。

 贅沢を言うなら誰かにいてほしいが。

 人や車などの気配はするのに、みんなぼんやりしていて、はっきり姿が見えないし、虫には避けられ動物からは威嚇いかくされる関係なのだ。

 気ままな真夜中にすっかり慣れた頃、いきなり体が引っぱられたと思ったら、明るい世界になっていた。

 自分を引き寄せた人物がくっきり見えるどころか、思考までも伝わってくる。他の人の声も姿もわかるようになった。

 そうか。この人間を守ればいいのか。とやっとわかった。

 

 

 


 

 

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やっとわかった 高山小石 @takayama_koishi

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