深夜の不審者さん

大道寺司

第1話

「深夜♪ 街の中♪ 不審者に♪ 出会った♪」


 俺の最近の趣味は深夜の散歩だ。

 深夜は誰もいない。人目を気にせず自由に歩き回れる。

 テキトーに考えた歌を口ずさむながら歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。


「いたっ。なんだ? 食パン加えた美少女が徘徊する時間じゃないが」


 ぶつかってきた奴の顔を見ると成人男性だった。右手に鉄パイプ持ってるし、間違いなく不審者の類だ。


「何ぶつかってんだ。ぶち○すぞ」


 男は鉄パイプを地面に打ち付けて威嚇してくる。


「俺の不注意でした。すみません」


「謝って済むわけねぇだろ!」


 男は鉄パイプで急に殴りかかってきた。

 当然、当たりたくは無いので避ける。


「おっと。危ない」


「何避けてんだよ」


「俺が痛いのはあまり好きじゃない」


「ちっ、こんなことならアイツぶん殴っとけばよかったぜ」


「アイツ?」


「今日の昼間に会ったやつだ。ぐちゃぐちゃになるまで殴れると思ったのに、殴ろうとしたら恐怖で失神して倒れて地面に頭打ちつけて死にやがった。興覚めだ。俺は殴った奴の悲鳴と苦痛に歪んだ顔を見るのが快感なんだ」


「あー、そういうくちね」


「あぁ。だからお前で気持ちよくならせてもらうぜ!」


 そう言って男は再び鉄パイプで殴りかかってくる。

 面倒なやつに捕まったなぁ。


 次の瞬間、真夜中の暗闇に銃声が鳴り響く。

 男は心臓を撃ち抜かれ、驚いた表情で倒れこんだ。

 俺は懐から手鏡を取り出し、男に鏡に映った自分の顔を見せる。


「ほら。悲鳴をあげて苦痛に歪んだ顔しなよ。気持ちよくなれるんでしょ?」


「何者だ、お前......」


「俺としては深夜に散歩してるだけの一般市民のつもりなんだけどね。誰か来たら面倒だから俺はもう行くね」


 俺は男を放っておいて散歩を再開した。

 たまたま通りかかった掲示板に目をやると、さっきの男の顔が張り出されていた。


「へぇ、あんなのでも指名手配犯なんだ。よく捕まらないね」


 すぐに興味を失い、隣に貼られている色男の顔に目が移る。


「へぇ、中々よく撮れてるねぇ。もう少しカッコよく撮って欲しいけど」


 やはり深夜の散歩は最高だ。

 人の目をあまり気にせず自由に街を闊歩できるんだからさ。

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深夜の不審者さん 大道寺司 @kzr_

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