丑三つ時の拾いモノ

熊坂藤茉

何故かハチャメチャ怒られてます

 しわしわの顔の齧歯類みたいな表情で、暗い夜道をぽてぽて歩く。

 時刻は既に丑三つ時。考えに行き詰まったが故の深夜徘徊お散歩なので、これでいい感じに気分転換……出来て……でき……出来てたらこんなんなってないんですよねぇ~~~~~!


「なんで〆切なんてモノが存在してるんだよぉおおおおおおおお」

「深夜にうるせぇ吠えるんだったらヒトカラ行けや」

「オゴフッ!」


 べちんと脳天に響くその感触は、中綴じ製本コミック誌。頭を押さえながらなんだなんだと振り向けば。


「……なんでいるんです」

「そこのコンビニで買い物してたんだが?」


 ぐい、と煌々と明かりの灯る有名コンビニチェーンを指差しながら、同じゼミの微妙に相性がよろしくない男子がそこにいた。


「大体こんなとこうろついてる時間あんのか? 提出期限明日――あー、今二時過ぎたとこだから違うか。今日の十九時までにレポート提出用クラウドにアップってなってたろうが」

「ソウデスネ」

 知ってて今こうなんですよね。ふしぎだね。


「残り十七時間切ってるし睡眠時間考えると実質十二時間がいいとこじゃねえの?」

「ソウデスネ」

 分かってるのにねー。全然進まないんだよねー。何でだろうねー。


「そんで今日はお前講義一個もない曜日でまだギリッギリ間に合うだろが」

「ソウデ――なんで私の取ってる講義知ってんの?」

「…………」

「無言で目を逸らされるの怖いんだけど!?」

 何!? 何の意図が含まれてるのその無言!


「えっと、そういや何買ったの?」

「あ゛!?」

「待って何そんな狼狽える代物なんかい」

 大慌てで手に持った雑誌を背後に隠す彼の様子に、今度は逆にこちらの方が狼狽える。いやでもこれ、これ追及したらこいつの弱点握れる系のそれなのでは……?


「や、その、変な代物ではねえよ! 変な代物では!」

「じゃあどんな代物ですよ」

「ぐ……」

「みーせーてー☆」

「ん゛っ」

 ごろにゃんと駄目元の猫撫で声に、なんかよく分からない刺さり方をしたらしい。やった側が言うのもアレだけど、正直刺さり方にちょびっと引いた。


「……言っておくけどな」

「うんうん」

「俺は! 俺は至って平均的かつ健康的な男子大学生でな!」

「そういう話は特にしてないけどつまり何が言いたいの?」

「世間様に迷惑掛けない為に必要だから買ってんだよ……」

 若干涙目の彼を見て「あー」と何だか察してしまった。そうだね、コンビニってそういうの置いてあるもんね。心身が健全ならそりゃ要るわ。


「昨今はデジタルデータで隠したり嵩張ったりしないようにするって弟に聞いたけど」

「お前家ではどんな姉貴なんだよ。俺は単純に好みの作家が紙でしか出てない雑誌に描いてるってだけ」

「作家性じゃしゃーない奴だ」

「理解得られるのもそれはそれでアレだな……」

 どう転んでも文句が出るのどうしろと?


「……レポート手伝ってやろうか」

「へ?」

「気が向いた。お前真面目に講義は受けてんのにまとめるのクッソ下手なのは前から見てて思ってたんだよ」

「そりゃまとめるの確かに苦手だけど! ……そんなに? そんな前から気になるぐらいヘッタクソ?」

「引っ掛かるのそこかい。生きにくそうだなと思う程度には下手」

 恐る恐る問うてみて返される無情な答え。涙出るレベルに余程であった。

「じゃあ、はい。手伝ってもらえるなら手伝って下さい……」

「おう」

「そしたら今から夜食買うからちょっと待ってて……」

「……は? いや待て。手伝うぞ? 手伝うけどな? お前陽が昇ってから合流とかでなくこの時間に男を家に上げる気か!?」

 急激に動揺する彼を前に、はて、と私は首を傾げる。

「……あ、私は気にしてないけどすっきりしてからうちに来るので全然」

「論点はそこじゃねえ!!!!!」

 バチクソ怒られたの超解せぬ。なんでだ。


「あーもう分かったさっさと終わらすぞ! 後お前ホントそういうとこだからな! そういう所だからな! 結局家に上げる判断自体は変わってねえし!」

「合理性を重視しただけなのに……」

「合理的な奴はこんなド深夜にレポート終わらねえって現実逃避に散歩しねえ」

「ゴモットモデゴザイマス」

 あうーあうーとうめく私に、横からこぼれるクソデカ溜息。そこまで呆れなくていいじゃんよー……相性悪いのは分かってるけどさー……私は君のこと嫌いじゃないのにー……。


「ホントなんで俺こんなのをさあ……」

「ん?」

「何でもねえよ。ま、現実逃避も結果オーライなんじゃねえの?」

 こうして解決手段拾ったんだからな、なんて笑顔で言われれば、流石にこちらも何にも言えない。


「何卒お手柔らかに……その、優しくしてね……?」

「半泣き上目遣いでそれはお前ホンットやめろよマジで」

「だからなんで怒られてんの!?」


 ぎゃいぎゃいと声を上げながら、肩を並べてコンビニへと入っていく。さーて、どうにかして〆切倒すかあ――!

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