終電が過ぎていくらか経ったくらい
ViVi
このわたしにかぎっていえば
深夜の屋外には、独特の趣というか、居心地のよさがある。
人通りがすくなく、車の行き来もすくない。
それだけでも、散歩をするうえでは大いに好都合だけれど、もうひとつ、「静かである」というのが好ましい。
ひとけがない以上、いってしまえばそれは当然ではあるにしろ――この「静寂」というのは、令和の現代社会では貴重な、いわば贅沢のたぐいだと、わたしは思っている。
風を、音として聞けるくらいがちょうどよいのだ。
だから、ここのところしばらく、午前一時過ぎくらいになると散歩に出るのが日課になっていた。
終電が過ぎていくらか経ったくらいだから人影はごく少ないし、それでいて深夜営業の飲食店はギリギリ開いているくらいだから完全な無人ではない(ここは適度に都会だ)。そういう時間帯。
歩いて駅前まで出て、適当に軽食をつまんで、ふたたび歩いて帰宅する。
片道数十分、往復で二時間未満ほどの、何ら面白みのない、ありふれた日課だけれど、どだい、散歩とはそういうものだろう。
今日もまた、そんな夜道だった。
ただ、すこしばかり特筆すべきこともあった。
そろそろ駅が見えてくる――といった頃合いで、声をかけられたのだ。
見たところ、客引きのたぐいではない。
ビラなりチケットなりを持っている様子はないし、そもそもしゃべりが朴訥だ。これでは客は捕まえられまい。
しかし、そんな飾り気の感じられない口調でありながら、わたしを指して、綺麗だとか何とか言った気がするのだ。静かな夜道である、聞き違いということはないだろう。
ではナンパか、というと、そうとも思えない。ナンパにしたって、ふつう、そんな態度では奏功しないだろうから。
……ただし。
このわたしにかぎっていえば、こっちの側がすこしばかり“ふつう”から外れている。
だから、適当に返事をして、そのまま近くの路地へと手を引く。
きょうの軽食は、すこし早めに見つかった。
終電が過ぎていくらか経ったくらい ViVi @vivi-shark
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