ほたるの里で迷子

単三水

ほたるの里で迷子

僕は月とほたるの光だけを頼りに、ほたるの里を一人で散歩していた。本当は懐中電灯なども欲しかったのだが持ってきておらず、それに加えてケータイはいつの間にか画面が割れて、壊れてしまった。なので親にも連絡ができずにおり、散歩というよりは迷子である。


それにしても、やけに夜が長い。もう三日位の時間が経っているように思えるが、尿意は来ていないのでまだ少ししか経っていないのだろう。そもそも日が昇っていない、やはり一人で何も変化が無いと体感時間が長く感じられるのだろうか。すぐ近くのガードレールの向こうを覗いてみた。暗い。真っ暗闇が永遠に続いているように感じる。ガードレールは低く、少しでも身を乗り出すとすぐにでも落っこちてしまいそうだった。


少し進むと、ほたるの里の看板が見えた。またか、と思いながら一旦歩くのをやめ、看板の上に設置してある明かりの下に座る。またか、というのは、今まで何回もこの看板を見ているからだ。ほたるの里には毎年来ており、僕にとっては馴染み深い場所である。一本道の筈だ。だが、一本道であるにもかかわらず何回も此処に辿り着いているということは何処かに分かれ道等があり、それを見逃しているのだろう。それにしても、此処はぐるぐる回るような道ではなかった筈なのだが…。


またしばらく歩くと、女の子が腐草を吹いているのが見えた。同年代だろうか。吹かれた腐草は散り散りになり、ほたるになって飛んでいった。なんとも不思議な光景に見入っていると、女の子が話しかけてきた。

「…どうしたの、君」

迷子になってしまった旨を伝えると、

「そっか。私も一人なんだ」

ということで一緒に歩くことにした。


「ねぇ、君…もし帰れなかったらどうする?」

餓死する、と答えた。すると女の子は楽しそうに、

「あははっ!変なの。そうなるまでずっと此処でぐるぐる回ってるつもりだったの?」

そう笑い、僕を田んぼに落とした。僕はほたるになり、飛んでいった。

「そもそも、君と私だけしか居ないってこと自体あり得ないことだったんだよ。今は夏なんだから」

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