Night of terror
折上莢
第1話
「散歩に行きたいです」
「何時だと思ってるんだ、却下」
ぶすっと頬を膨らませるひよを見て、これみよがしに大きくため息をつくなつ。
現在深夜零時。外に出るような時間ではない。
「ね〜え〜お〜ね〜が〜い〜」
「何しに行くつもりだよ、こんな時間に。コンビニか?」
「コンビニじゃない」
「じゃあどこ」
「うーん…じゃあ三丁目の公園」
「明日にしろ明日に。こんな時間の公園なんて不審者しかいねぇよ」
冷たく言い放って、なつは雑誌に視線を戻す。ひよはさらに頬を膨らませた。
「じゃあいいよ、一人でいくから」
「…は?」
「なつくんがついてきてくれないなら一人で行ってくる! じゃあね!」
ひよがパーカーを羽織って部屋を出ていく。ポカンとそれを見送ったなつは、慌てて自分のパーカーを引っ掴んだ。
「おい、おい馬鹿ひよ、おい」
ひよはつんとそっぽを向いたまま、早足で歩き続ける。
「止まれ、帰るぞ」
「やだ」
腕を掴む。しかしひよは止まらない。
「…はあ」
ため息をついて、掴む場所を手まで下ろす。ひよがなつを見上げた。
「公園までだからな。入らないからな、公園には」
「えー、ブランコしようよ」
「しない」
惚れた方が負けとはよく言ったものだ。手を繋いだまま、二人は等間隔に設置された街頭の下を歩く。
「…あれ?」
ひよが足を止める。なつも止まって首を傾げた。
「どうした?」
「…あそこ」
ついと指が伸びる先は、何もない。
「…何もないが?」
「え?」
今度はひよが首を傾げた。
「あるじゃない」
「何が」
「なんか、こう…」
形容し難いのだろうか、ひよが唸る。嫌な予感がした。何もない場所を指差す彼女、そして。
「…イカの触手が埋め込まれた、スライム…みたいな?」
想像すると同時に、ひよの手を掴んで走る。
「わわ、なつ? どうしたの?」
なんともない様子のひよが声をかけてくるが、それに答える余裕もない。
昔から、ひよには何か別世界のものが見えているのは聞いていた。今回みたいなスライムだとか、三つ首の犬だとか。最近はそういうことを言わなくなったので、油断していた。
夜は魔物の住む時間。人ならざるものが活性化する時間。
「なつ、私公園行きたい」
「いいから、帰るんだよ!」
今思えば、なんで公園に行きたがっているのかもわからない。魔物におびき寄せられているんじゃないかとか、そんな推測すらできる。
鳥肌がたった腕のまま、できるだけ早く家に戻る。
ひよが後ろを向く。
スライムは、イカの目でじっと二人を見つめていた。
Night of terror 折上莢 @o_ri_ga_mi_
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