蒼い月夜の浜辺には

ひとえあきら

第1話

蒼い月夜の浜辺には - 1


 コツ、コツ、コツ……

 ひたひたひたひた……

 コツ、コツ、コツ……

 ひたひたひたひた……


 遙か彼方より犬の遠吠えが聞こえる深夜2時。

 月は新月から僅かに顔を出したのみで辺りは暗い。

 その暗い道を進む人影が、2つ。


 コツ、コツ、コツ……

 まだ頼りなさげに響く足音の主はうら若き細身の女性のようだ。


 ひたひたひたひた……

 その後から微かに聞こえる足音は粘っこく響く。その姿は陰に紛れたかのように見えない。


 コツ、コツ、コツ。

 時折、後ろを気にしていたは、ついに耐えかねたか立ち止まる。


 ひたひたひたひたたたたたたたた!!

 そして後から来た足音が急速に早まり、遂にはの前に出た!!


「――おヤおヤ、こォんナにお美シぃお嬢SANが夜道ノ独り歩キは危なイdeathヨ?」

 後から来た足音の主――その男は恰幅の良い腹を揺らして嗤いながら言う。

「……」

男に行く手を塞がれる形になった彼女――年の頃は十代後半ハイティーンであろうか――は立ち竦んでしまったのか俯いたまま言葉も無い。

「危険deathのデ、私がオ家までお送り致しマshow」

 脂ぎった顔に粘つく笑みを貼り付かせ、男は一歩、前に出る。

 どう見てもお前の方が危ないだろうと言いたくもなるが、月影も微かな深夜の小径こみちのこと、周りには人影どころか犬猫の類いさえ居ない。

 不意に彼女が顔を上げ、男に相対する。手にはスマホを持っているが、そこには古ぼけた写真が表示されていた。

「――ねぇ、ご親切な、ひとつお尋ねしたいのですけれど」

 急な質問に一瞬戸惑う男だったが、思い直して次を促す。

「……この写真の人物に心当たりは御座いませんか?」

 一瞬考えて、ふと何かをと手を打つ男。

「――おォ!! そゥ言えバ、私ノ近所の人トそっくりナ気が――」

「まぁ、それは僥倖ラッキーでしたわ♪――その方のお宅はこの近くなのでしょうか?」

「そ、そゥだネ、ほンの隣町だよ――何なラ、帰り道だシ一緒に来ルかNE?」

「それはそれはご親切に有り難う御座います。宜しくお願い致します」

 こうして奇妙な深夜の道行きが開始された、が――。


 ひたひたひたひた……

 コツ、コツ、コツ……

 ひたひたひたひた……

 コツ、コツ、コツ……


「――あの、もし」

「はイ?」

「この先、殆ど廃屋ばかりのようなのですが?」

「ダが、私ノ家はコノ先ナのdeathヨ」

「あの、今更ですが――本当にご存じですの、この人物?」

「――ふム」

 今までは妙に躁的ハイ過ぎるきらいのあった男の声が、一瞬、沈み込む。

 そして更に地の底深く、まるで地獄から呼びかけているように――。

「勘の良イ娘ハ嫌イだNE――早死ニすル事にナるからナ!!」

 言うなり、男の服が弾け飛び、更には皮膚という皮膚までがめくれ返る!!

は余計ナことヲ考エるモンじゃァ無イ!!」

 見るもおぞましい怪物に変貌を遂げた――今となってはなのかすら定かではないが――は、その体躯からは想像も出来ぬ程の敏捷性を見せて飛び上がり、哀れ付いてきてしまった彼女に襲いかからんとす。


 が。


「――今回もでしたか」

 軽く嘆息して宣うの姿が不意に闇に溶け込むように消えた。

 月の無い闇夜ですら見渡すの異形の瞳にすら映らぬという事態に一瞬、動けなくなる。

 その一瞬の隙。


 Zashuっっっっっ!!


 突如として飛来した氷の刃に全身を切り刻まれ、


 Gwaaaaa!!


 炎の渦にその身を焼き尽くされる。


 最期の瞬間にであったモノの眼に映ったのは、三人の少女の姿だった。


「――最期までどっちがだったか解ってたのかな、コイツ?」

「ぁははは!! こんな化物バケモンにンな知能なんて無ぇーってば、アネキ」

「二人ともご苦労様。今回もハズレだったみたいね」

「それにしてもで人に化け仰せてると信じてるんだからいっそ哀れよね、姉様」

「なんかコイツら、段々質が落ちてきて無ぇか、姉ちゃん?」

「――そうね、何となくだけど、ちょっと粗製濫造気味というか、も焦っている――?」


 暫し黙り込んで見つめ合う三人の姉妹――との決戦の日は遠くない、それはその身に宿る月の乙女神アリュヌのお告げでもあったか――月は黙して語らず、ただ彼女らを照らすのみ。

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