トマト

@pty029

トマト

 深夜の小腹が「欲望を満たせ」とうるさいからコンビニへ行き「ジャンクヌードル トマト味」を探した。棚にひとつ残っていたので取る。チルドコーナーで トマトジュースのパックを手にした。


 これは先月発売された新フレーバーのカップ麺。バズった。真夜中なのにレジには六人並んでおり、みなトマト味とトマトジュースを手にしている。


 カップ麺の柄を眺めていたら腹が減りはじめた。早く支払いしろよ前の奴ら。


 俺の番だ。店員に千円札を渡し、釣りはいらんと伝え、プラのフォークをもらい、備え付けポットでカップ麺にお湯を入れて外に出た。


 このカップ麺は不味い。トマトの酸味に混じって微かに鉄っぽい味がする。だが、一度食べたら翌日も食べたくなる魅力があった。

 違う。

 赤いものが欲しくなるんだ。

 

 無性に腹が減る。早く飲みたい。


 俺はカップ麺とトマトジュースを持って近くの公園へ向かいベンチに座った。


 まだ固い麺にフォークを突き立て、かき回し、無理やりほぐす。口の中が火傷するのに構わず麺を飲んだ。真っ赤な汁も一滴残らず飲み干す。

 不味い。口が焼ける。

 もっと飲みたい。


 俺はトマトジュースのパックの端を噛みちぎり、切れっ端を吐き捨ててジュースを一気に飲んだ。

 不味い。これじゃない。

 もっと飲みたい。


 深夜に犬を連れ散歩している姉ちゃんがいた。地味な姉ちゃんとプードル。

 あの姉ちゃんうまそうだな。

 俺は空容器を放り捨てて立ち上がり駆けて姉ちゃんに飛びかかり押し倒して首筋に噛みついた。犬は逃げていった。姉ちゃんは泡を吹く。

 

 姉ちゃんを思いっきり吸った。ずぞぞぞ。

 姉ちゃんをカップ麺のように啜った。ずぞぞぞぞぞぞ。


 うまい。


 姉ちゃんは空になった。ミイラみたいだ。


◇◇◇


 コンビニのバックヤード。

 机上のFAXが始動。

 こんなタイトルの紙が吐き出され始めた。


   ジャンクヌードル トマト味

      緊急撤去依頼

― 感染性病原体「ドラキュラ」混入事故 ―

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