シュレディンガーな私
rio
離島
「皆様、本船はまもなく
船内にアナウンスが鳴り響いた。
東京の
周りを見回すと、荷物をまとめ始める人々が目に入った。それに影響され、
上着を着て準備をしていると、激しい音と共に揺れが静かになった。
合図と共に岸にロープが掛けられ、着岸の準備が始まった。
旅行にはよく行くが、大体が陸路か空路なのでその様子が新鮮で、度々準備を忘れて見てしまう。
ガタン、とギャングウェイがかかる音が鳴り、それを合図にドアが開いた。
床に寝ているスーツケースを立ち上げ、首から下げているバッグとカメラを揺らしながら、出口へと向かう。
ドアを出て船を降りると、係員にチケットの半券を求められた。
残りの半券は記念に取っておくものだと思っていたので一瞬戸惑い、ポケットに手を突っ込んでみる。
複数枚の紙の感触があったので取り出してみると、昨日食べた牛丼屋のレシートと共に、半券が出てきた。
自分のズボラさと、後ろに待っている人の圧力を過剰に感じながら手早く半券を渡す。
スカートじゃなくてよかった。やはり長距離移動は機能が大事だと、特別普段スカートを履くわけではないが、自分の選択を賞賛した。
そのまま人の流れに身を任せて進むと、おそらく帰省であろう家族を、老夫婦が迎えに来ていた。
その奥にはホテルや旅館の送迎なのか、名前が書いてあるボードを掲げて待っている人が沢山いる。
電車はもちろんだが、バスもあまり数が多く走っていないので、基本的にどの宿も送迎サービスが付いているらしい。
一周見渡して、端の方に自分の親ぐらいの年代の女性が「
「あっ、初めまして。
咲希が会釈をしながら近づく。
「どうも、立山旅館の西野ですー。遠かったですよね?ご苦労様」
いえいえ、と小さく首を振る。
「この便は南部さんだけなんです。車、あっちに用意してるのでとりあえず行きましょうか。」
そう言って、だだっ広い港の駐車場へ案内される。
写真を撮りたいから待ってくださいとも言えずに、スーツケースを転がしながら、途中数枚の写真を携帯で撮る。
立山旅館と車体に書かれているハイエースに着くと、車の後ろにスーツケースを積み込み、車内に乗り込む。
「じゃあ行きましょ。何かよりたいところとかないですか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
そう答えると、車が動き出した。
「船、結構お客さんいました?待機してる人の数がすごい多かったのよ。先月まではほとんどいなかったのに」
職業柄なのか、私があまり話をしないからなのか、積極的に話題を振ってきてくれる。
「そうですね、船はほぼ満員って感じでした。もうすぐゴールデンウィークですし、休み早くとって観光に来てる人とかも多そうですね」
「そうよねー。うちもゴールデンウィークはほぼ満室で、うれしい悲鳴だけど、人が足りなくてねー」
大変だけど、嬉しいが勝ってるといった表情だった
数年前にリフォームしたこの旅館は、いわゆる旅館っぽさを残しながらも、フロント部分をカフェ併設のオープンスペースにするなどと現代的な側面もある。
学生や20代の社会人、そしてノマドワーカーなどに人気な旅館だ。
SNSで流行っているという理由で選びたくはなかったが、過ごしやすそうで、さらに長期滞在の割引がかなりあったので泊まることにした。
港を出て少し山道に入ると、「立山旅館」という看板が出てきた。
人が少ない島だからと少し侮っていたが、道がかなり整備されている。
「結構港から近いんですね。」
「まあ全体がそんなに広くないからねえ、端から端まで車があれば30分でいけちゃうのよ」
「南部さん、車の運転はできるんですか?」
「一応免許は持ってますけど、、、あんまり運転はしないです」
「そうなのね。うちは自転車の貸し出しとかもしているから、それを使えばあまり移動には困らないと思うわ」
後は電動キックボードとかもあるのよー、と言いながら右にウインカーを出し、駐車場らしき空き地に車を入れた。
「はい、お疲れ様。今、後ろ開けますねー」
ありがとうございますとお礼を言い、車から降りて、トランクからスーツケースを降ろす。
丁度道を挟んで向かい側に、「立山旅館」と書かれた看板がかかっている建物が見えた。
外観はあまり手を加えていないらしく、昔ながらの建物だった。
「あそこが旅館ね。荷物重くない?とりあえずチェックインしちゃいましょうか」
そう言い旅館へと向かった。
ガラガラとスーツケースを引き摺りながら自動ドアを通り、下駄箱があったのでスニーカーを脱いだ。
「履き物と荷物は一旦ここに置いて大丈夫なので、先に手続きをお願いしますね」
気持ち程度にスニーカーを整え、カウンターに向かった。
「南部様ですね。お待ちしておりました。」
こちらが名乗るよりも先に、受付にいた若い女性が話しかけてきた。
「あ、はい。」
慌てて最低限の返事をする。
「本日より30日間のご宿泊で承っておりますが、お間違い無いでしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
「承知いたしました。その他、内容に間違いなければこちらにご署名だけお願いします。」
事前に入力した住所などが載っているタブレットを渡されたので、署名欄に名前を書く。建物の内装だけでなく、こういった所がデジタルなところも、「若者に人気」な宿な気がする。
「ありがとうございます。お部屋は203号室になります。こちらの階段の横にエレベーターがありますので、そちらをご利用ください。朝食ですが、1階のカフェが会場となっておりますので、7時~10時の間にお越しください。」
話を聞きながら、朝食付きのプランにしていたことを思い出した。
朝がそんなに強くないので30日毎回食べれるのか自信はなかったが、予約当時は可能だと判断したのだろう。
「お風呂ですが、男女入れ替え制となっておりますので、詳しい時間はこちらをご覧ください。」
そう言ってパンフレットを差し出す。
「その他、何かご不明点なごございますでしょうか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
そう言って、カードキーと旅館の案内図を手にとる。
「それでは、ごゆっくりお寛ぎください」
一通りの手続きが終わったので、荷物の元に向かうと、
「荷物は後ほどお持ちしますので、先にお部屋の方へどうぞ」
と、声をかけられた。
エレベーターだし自分で運べるんだけどな、と思いつつも、特に断る理由も見つからなかった。会釈をしながらお礼を言い、奥の階段へと向かった。
途中カフェがあり、海が見えるカウンターでイヤホンをしながら何かPCで作業をしている人、今日の観光をどうするかを話しているカップルなどがいた。
家族連れもいたが、やはり若い人が多い。
エレベーターが4階にいたので、階段を登り203号室へ向かい、カードキーをかざした。小さく、カチャという音がなり、部屋に入った。
大きな窓があり、そこから海が見える。
リニューアルしたてということもあるのか、かなり綺麗な内装になっている。
「ふー」
綺麗にセットされたベッドに倒れる。
久々に人と話したからなのか、遠くに来たからなのかなんだか疲れた。
とりあえず携帯を開き、キーケースに書いてあったパスワードを入力してWifiを繋ぐ。仕事を辞めて1ヶ月ぐらい経ったので曜日感覚が全くなかったが今日は月曜らしい。
窓からの写真でも撮っておこうかと思ったが、一度横になってしまったので動く気が全く無くなってしまった。
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