3.ヒカガミ商会護衛任務 前編(2/6)
キンカの様相にぎょっとした彼女に気にすることもなく、キンカは単刀直入に切り出した。
「ウチら今王都を目指して旅をしてるんスけど、路銀を稼ぎたくてお仕事を探してるんスよ。どこかそういうのを紹介してるとこって知らないっスか?」
「あ、ああ。仕事なら、ちょうどここで斡旋してるよ」
少し戸惑った様子を見せつつも、彼女は律義にキンカの質問に答える。
彼女が親指でくいくいと指し示しているのは、ちょうど彼女が先ほどまでいた建物だった。
そうだったんスねと、キンカは感心したように吐いたため息とともに礼をする。そんな彼女に、黒髪の女性は頬をかきながら、どこか気まずそうに口を開いた。
「あー、ただ、その、なんだい。気を悪くしないで聴いてほしいんだけど、君達その服装のまま役所に入るつもりかい?」
「そのつもりっスけど、何かまずいことでもあるんスか?」
きょとんとしたキンカに、後ろで様子を見ていたクチナシは頭を抱えた。
なにせキンカは黒い布を一枚体に巻き付けているだけで、他に身につけているものなど何一つとしてない。もはや服装とすら呼べないような有様だ。
片や一緒にいるクチナシといえば、革の長靴にグローブをはめ、大柄な体をマントで覆い尽くし徹底して肌の露出を避けている。そして極めつけに、彼は竹を編んだ籠を被って顔を隠していた。これではお尋ね者だと間違われても文句は言えない。
怪しむなと言う方が難しいくらいの突飛な衣装に身を包む二人に、仕事を任せようと考える勇者がいるとは思えない。そしてそれに気が付かないほど、今の服とも呼べない服に慣れ切ってしまっているキンカの常識外れっぷりに、クチナシの口が空いたまま塞がらなかった。
クチナシが考えたことと同じ内容の話を女性から聴くうちに、キンカの表情はみるみる青ざめていった。
「クチナシさん。お金貸してください! 稼いだら返すので!」
『ふざけんな。お前には財布を一つ渡してるだろ。それを使え』
「これ使っちゃったら、クチナシさんウチのこと置いていくじゃないっスか!」
振り返って叫ぶキンカをクチナシは一蹴する。これでヒカガミに置いていければクチナシにとっては好都合だ。
むしろ、カカットを離れヒカガミまで来ることができたのならば、これ以上クチナシの旅に同行する必要もないはずなのだが、彼女はそれに気付いていないのかと疑問に思った。
「えーっと、何やら訳アリって感じだね……」
なにやらよく分からない言い合いを始めた二人に、黒髪の女性は困ったように引きつった笑いを浮かべた。
だが、それも一瞬のことだった。
ふと彼女は表情を変え、品定めするかのように二人の頭からつま先までをまじまじと見つめ始める。そうして少し考え込んだ後で、二人に思わぬ言葉を投げかけた。
「ただ、そうだなあ……。君達がよければ、私から依頼できる仕事が一つあるんだが、どうだい?」
あまりにも突然、都合のいい話が耳に入り、キンカとクチナシは同時に女性の顔を見た。
仕事にありつけるとキンカは目を輝かせ、反対にクチナシは心の中で渋い顔をした。
女性が着る簡素な布の服の上に装着した革の胸当ては細かい傷に塗れ、ちらりと見える肌には無数の古傷が残されている。何よりも、彼女が腰に差す短剣と、背負う人の身の丈ほどの長さの槍が、彼女の仕事内容を物語っていた。
「ま、仕事の内容を知らないままじゃ判断もできないだろ。君達に何をしてほしいかは今から話すよ。歩きながらでいいかい?」
キンカがぶんぶんと首を縦に振ると、女性は苦笑しながら先行し始める。キンカも彼女の隣について歩き、クチナシは二人の後ろについていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます