第30話 アニキの本題は?
私が尋ねれば、アニキはふむと唸った。
「概ね、確認したいことは確認できたさ。スマホが繋がらなかったから生存確認したかったのが第一で、状況に進展があったかの確認が第二。異変がなければそれでいい」
そう返して、兄は神様さんをちらっと見やった。
「心配性だなあ」
「梓くんは、弓弦ちゃんに用事があったんじゃなくて、僕に用事があったみたいだからね。僕が弓弦ちゃんと一緒にいない時間を狙ってここにきたわけで」
神様さんが会話に入ると、アニキは睨んだ。神様さんは愉快そうに笑う。
挑発したな?
「一緒にいるかどうかなんてわからないと思いますけど?」
そう都合よく部屋を訪ねることはできないと思えた。私も神様さんも外に出られない状況なので、バラバラに活動するのは難しい。離れている時間があるとすれば、入浴の時間くらいのはず。
シャワーを浴びることになったのは昼間からシテたからな訳で、夕方にいつも風呂に入っているわけじゃないからなあ……
私は寝る前にお風呂に入るタイプである。まだ寝るには早い時間だ。
私が神様さんにツッコミを入れると、彼は人差し指を立てて横に振った。
「君の行動は読みやすいってことさ」
「そんなに単純じゃないですけど?」
納得ができない。シャワーを浴びることになった原因が原因なだけに不満である。
噛み付くように私が言えば、神様さんは笑うだけだった。
「……はあ」
頭痛を感じたみたいな様子で額を抑えて兄がため息をついた。なんか申し訳ない。
「元気そうで安心した。そろそろ帰るわ」
アニキが立ち上がる。そのタイミングでスマホの音が鳴った。私のスマホは電源を切ったままなので、この着信音はアニキのスマホの音だろう。
兄はポケットからスマホを取り出して画面を見る。画面を複数回タップしたのちに驚きの表情を浮かべ、その画面を私に向けた。
私と神様さんはくっつくように並んで画面を覗き込む。
「捕まったみたいだな、犯人」
「あ、この速報、あの夜の事件の?」
表示されていたニュース記事に載っている地名が近所だったのでどういう意図かと思ったが、私が尋ねれば首肯したのでそういうことなのだろう。
よかった、捕まったんだ。
「凶器も見つかっているみたいだし、ひとまずは安心が増えたか」
「……ふぅん」
神様さんは興味深そうに呟いて、目を細めた。その横顔は少し怖い。
「じゃあ、外に出られるね」
「確定じゃないから、まだ出ないほうがいいと思うが」
「ええ……」
出かけたい場所があるわけではないが、引きこもっているのも退屈なのである。ゲームもやりたかったところはクリアしちゃったし。
私が不満な声をあげれば、アニキはスマホをしまいながら苦笑した。
「仕事が休みの間はおとなしくしておけよ。メシは運んでやるから」
「運動不足になっちゃうよ……」
「運動なら任せてよ!」
「要らんわっ!」
高速ツッコミ。神様さんはしゅんとして叱責された仔犬のようになってしまったが、放っておこう。
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