一目惚れ

ユラカモマ

散歩中の一目惚れ

 まさか、三十路を越えてから一目惚れなどというものをするとは思わなかった。けれど、確かに運命というものを感じたんだ。


 日の落ちた町の裏筋の少し広いところにある女神像に祈りを捧げていたとき、隣に深くマントを被った女性がやって来た。厳かな所作で膝まづき自分同様に祈りを捧げる。もともと奥まったところにあり少し錆びて古くなっているこの像は由緒正しい物だが表の広場に新しい像ができてからはこの像のもとを訪れる人はまばらである。そのときは真夜中だったこともあり周りに他の人影は見えなかった。祈るのを止め、数歩引いて後ろから彼女を見た。彼女の羽織るカスタード色のマントが月の光を吸って輝いていた。臭い言い回しになるがまるで天使が地上に舞い降りてきたかのように美しかった。


 祈り終えた彼女は俺の視線に気付くと慌ててマントで深く顔を隠した。その仕草にもう帰ってしまうのではと思えて俺は慌てて声をかける。


「悪い、ナノハ通りへはどういけばいい?」


「えっ、それなら...そこの大通りに出て右に行って花屋の角を曲がってその道からまた脇に逸れて...」


 彼女は一瞬ぎょっとしたが道案内を請われるとちょっと安心したように丁寧に教えてくれた。


「結構いりくんでいるんだな。悪い、覚えれそうにないからもし時間があったらお嬢さん、一緒に来てくれないか?」


「あ、そうですよね。いいですよ。」


 彼女は迷惑そうなそぶりもなく言ったこちらが拍子抜けするほどあっさり承諾した。マントを掴んでいた手がはずれ花のように優しい笑顔が垣間見えた。これは想像以上だな。ほう、と内心値踏みしながら彼女とともに表通りへと出る。


 彼女の名前はアイリーン・セブナ、もう少し先の通りの屋敷の住人で、女神像のことは知り合いから話を聞いて通ってみたそうだ。不思議と心が休まるのだという彼女に俺もだと返しながら心はちっとも休まっていない。むしろばくばくと踊り狂っていてどうにかなってしまいそうだ。


(どうすればもっと近づけるだろうか…。)

 

 初めて知る恋心に俺の脳みそはフルスロットルだ。

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一目惚れ ユラカモマ @yura8812

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