真夜中に幽霊と
石嶋ユウ
真夜中に幽霊と
あの夜、あまりにも憂鬱だった俺は家を出て散歩をしていた。時刻は深夜零時。あたりには誰もいない。はずだった。
彼女は俺の目の前で立っていた。白のワンピースを着ている少しスタイルの良い女性。だけど、彼女の服はよく見るとぼろぼろだった。
「うらめしやー」
極め付けはそれだった。俺は
「……驚かないんですか?」
まさか幽霊の方からそう言われるとは思わなかった。つい笑ってしまう。
「あは、あははは! はははは!」
「なんで、笑ってるんですか!」
幽霊は不満そうだった。
「だって、幽霊にしては迫力がないんですもん。あはは!」
「それ、言わないでくださいよ! 気にしてるんです!」
「ああ、すみません……」
「いえ、私こそ、幽霊二年目なので。まだまだなのです……」
「まじですか」
幽霊二年目とは大変だろうなと思う。仕事としては一番辛い時期ではないだろうか。そう思うと、俺はなぜだか彼女のことを深く知りたいと思ってしまった。
「あの、もしよければ、一緒に散歩しませんか? あなたと話をしたくなってしまいました」
「え、良いんですか?」
「もちろん」
それから俺とその幽霊、ハナさんは深夜の街を散歩した。そこで俺たちが話したことは、今の仕事のこと、どんなことが辛いのか、どうして今の仕事をしているのかなどなど。彼女の話はとても面白かった。いつまでも話せるような気がした。
「私、これから生まれ変わるまでの間、幽霊としてやっていけるのか、不安です……」
二時間くらい歩きながら会話をしているとハナさんがポツリと呟いた。
「俺だって、今の仕事がうまく行くか、不安です。多分、みんな不安を抱えて生きてるんです。だから、ハナさんも大丈夫です」
「ありがとうございます。と言っても私はもう死んでるんですけどね」
「そうでした」
俺たちはそこで笑い合った。
やがて、時刻が朝になろうとしたので俺とハナさんはまた会う約束をして別れた。朝になった頃には俺の憂鬱は吹き飛んでいた。
それから時が流れ、今日は彼女と初めて出会ってから二年が経つ。深夜零時。いつもの道を歩く俺。いつも通りの場所に彼女は立っている。
「うらめしやー」
少しだけ恐ろしさが増した彼女の脅かしに俺は嬉しくなるのだった。
真夜中に幽霊と 石嶋ユウ @Yu_Ishizima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます