第五戦闘配備 ブルーチェリーの悩み
〜ブルーの場合 其の参〜
「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!なんで、日本にあんなデカいミミズがいるんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉッ」
僕の聞いた幻聴の後にそれは地面からやって来た。最初は
そんでもって地面から出て来たのは、僕の身長なんか目じゃないくらいデカいミミズだった。どれくらいデカいかって言うと、駅前にありそうなタワマンよりは小さいけど、ファミリータイプのマンションくらいはありそうだったって感じかな?
僕もテンパっているから、それで納得して!
「そのまま走って!そこから見える砂山の麓で右に曲がって!後はそのままダッシュ!」
「随分とリアルな幻聴だけど、今はそんな事を言ってる場合じゃないッ!信じて走るんだッ!僕の運動不足の足よ、保ってくれッ!」
僕は息を切らしながら走った。後ろを振り返らずに走った。持てる力を全て使って走った。「全力ダッシュ始めました」って看板がありそうなくらい走った。
どこにあるかは知らないけど、なんとなくありそうでしょ?
「ここで、いいんだよね?このまま真っ直ぐ!」
「えぇ、上出来です」
その直後、僕を追い掛けて来た巨大ミミズは、「ザザザザザッ」と鈍い音を立てながら流砂に飲まれて行った。
「助かったぁ……でも、あんなにデカいミミズなんて初めて見たよ」
しゅたッ
「あれは、蟲族のオリゴチャエタよ」
「オリゴ……糖?なんか、美味しそうな名前だね。それにしても助かったよ、ありがとう」
僕は違和感を覚えていた。一人の女性が砂山の上から、自分の目の前に降り立ったからじゃない。僕が女性と話せているからだ。
まぁ、見た感じは女性なんだけど、なんか違う……そうじゃない感が漂ってるなんて、失礼だから言わないけどね。
「わたくしはギョリ。貴方のお名前は?」
「僕は……ブルー。ココロブルーだよ。呼び辛ければ“ブルー”でもいいよ」
「そう、ブルーね?ところで、ブルーはこんな所で何をしていたの?お散歩……には見えなかったけど」
「僕は、なんでここにいるか分からないんだ……。気付いたら砂漠に倒れていて、ギョリに会うまで誰にも出会わなかった。——数日の間、ずっと歩き続けてやっとここまで来たんだ」
僕は誰かと話せる事が、こんなにも幸福な事だったんだと初めて知った思いだった。ヒキニートの時には考えもしなかった事だけど、一人で砂漠を放浪していたから考えが変わったのかもしれない。
「それは大変だったわね……。でも、ここら辺はあのオリゴチャエタみたいな巨大化した蟲族が色々と出て来るかも知れないから、気を付けてね。それじゃッ!」
「えっ?ちょっと待ってよ!」
「……まだ何か用かしら?」
「僕はずっと飲まず食わずで放浪してたから、お腹ペコペコなんだ」
「それは大変だったわね……。でも、これからも放浪するなら、ちゃんと準備してから放浪すべきよ。それじゃッ!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってってば!」
「……まだ、わたくしに用事かしら?」
僕は呆れ顔だったと思う。この話しの流れからしたら、道に迷って困ってる旅人(?)をギョリの住んでる街まで……要するに僕を街に連れて行ってくれるって思うじゃない?
それなのに、ギョリは僕の事なんか微塵も意識してない素振りで、そっけなく去ろうとするんだから……。
いや、そういう下心とかがあるワケじゃないからねッ!
「いや、あのさ、僕……お腹ペコペコなんだ。少しでいいから食料と水を分けてくれない?」
「なんだ、お腹が空いてたの?それなら最初から言ってくれればいいのに……。でも、わたくしのカッコのどこを見て、食料やら水なんかを持ってると思うの?」
確かに言われてみればその通りだった。ギョリの姿はあからさまに砂漠を旅するカッコじゃない。だって、まるでおとぎ話の人魚姫のような、半裸……いや、なんかそれだと露出狂みたいで失礼だね。
要するに水着に見えるナニカを着ているだけのカッコだったのさ。だから食料が入っていそうなバックもなければ、水筒を首からぶら下げていたりもしない。
ただ、手には高価そうな装飾品の施されたステッキを持っていた。ギョリが持っているモノはそれだけだけど、マジマジと見詰めるとギョリの顔立ちは整っていて、僕の人生で今までに見た事が無いくらい美人だった。
肌は透き通る程に白くて水着みたいなナニカからは、こぼれ落ちそうなくらいの胸がたわわに実っているし、髪の毛は緑色でサラサラのストレート、僕の顔を見詰めているその瞳は琥珀色でキラキラしていた。
今までの僕ならドキマギしっぱなしで、顔もロクに見れずにモジモジしてたって言い切れる。
「あの……そんなに見詰められると、流石に恥ずかしいと言うか……なんでブルーは、わたくしの胸ばかりマジマジと見てるんです?」
その一言で僕は我に返った。そして後悔した。「あぁ、やっちゃった……」って。女の人は自分の胸を男が見ていると直ぐに気付くって、昔誰かが言ってたのを思い出したからだ。そんな穴が開く程にまで見詰めていたなんて、思ってなかったんだけど……。
でもこれで僕の心象は最悪になったと思う……多分だけど。
「いや、あの、その、ごめん。ギョリのおっぱいを見てたワケじゃなくて、ギョリが凄い美人だったから、その……なんて言うか、ドキドキして視線を下げちゃってたんだ……」
完全にテンパって余計な事を言ったのは明白だ。なんで「おっぱい」なんて言葉を言ってしまったんだろう?「胸」で良かったハズだ。
前にピンクに対して「おっぱいがうんちゃらかんちゃら」ってレッドが言った事があって、そしたらピンクが「それってセクハラだしッ」って怒り出してレッドに殴り掛かった事がある。ブラックには同じ事を言われても、「やだぁ〜」くらいだったのにね……。
僕はそんな光景を前に見てたから、女性に「おっぱい」って単語はタブーだって知ってたハズなのに……。
あれ?でも、ブラックにとってはタブーじゃないのかな?
「まぁッ!わたくしが美人?そんな事を言われた事なんて一度も……もう、なんて日なんでしょう!「今日はブルーが言ったから美人記念日」とでも名付けて祝日にしてしまいましょうかしら?」
ギョリは意外とチョロかった。一方で僕はセクハラマン扱いされずに済んで、なんとなく救われた気がした。
ちなみに……上機嫌になったギョリは食事と水を僕に「恵んであげる」と言って手招きし、街へと案内してくれる事にした様子だった。
僕はなんの心配もせずに、白くキメの細かい背中、今にも折れそうな程に線の細い腰、そしてそこから下にある触り心地の良さそうなお尻を一心に見詰め……たりはせずに、ギョリに歩幅を合わせて歩き辛い砂の上を進んで行った。
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