とある一家の耳かき事情
バスチアン
A家の場合《兄−妹》
「耳……かゆい」
耳の中がムズムズする。
昔から耳かきが好きで、限界まで我慢してはバイトしたなけなしのお金で耳かきサロンに行くというのが密やかな趣味だったのだが、世界的なウィルスの流行が始まったのが3カ月ほど前。
世の中は、自粛、自粛、自粛。密閉、密室、密集の三密はいけません。散髪屋に、歯医者に、カラオケ屋も自粛。もちろん耳かきサロンも自粛。そんなこともあって耳が痒くて仕方ない。
もちろん自分で綿棒を突っ込んでゴシゴシやれば問題は解決するんだけど、そういう問題じゃないんだ。
「そんなわけでアタシを呼んだの?」
「そう」
電話一本で隣の部屋から召喚したのは四つ年下の妹だ。
「彼女に頼んだら?」
「前に頼んだけど下手くそなんだよ」
「だからって妹に頼むかね。お兄ぃってばキモイ」
「冷蔵庫に
「OK~♪ 任せといて」
プリンひとつで懐柔される。中学生とはいえ、我が妹ながら安い女だ。
「はい、じゃあ、ほら」
そう言って胡坐を掻くと、痩せた太ももの上に手直にあったクッションを置く。頭を乗せろということだ。
クッションの上にポフンと頭を乗せると、妹は綿棒を構える。ドラッグストアで買って来た黒い綿棒だ。
「いくよ~」
「おう」
細い指が耳たぶに触れるとクイィ~っと引っ張って角度を調整する。
ズボッ!
前置きも何もなくいきなり綿棒が突っ込まれた。
ゾボボ、ズボォッ!!
3カ月かけて貯めた耳垢は層になっていた。耳垢がびっしりとこびりついた耳壁の上を容赦なく黒綿棒が走る。すごい音だ。
「うおっ!!?」
「あれ? 痛かった?」
「いや、大丈夫だから」
「あっ、そ」
俺の鼓膜なんて別にどうでもいいとばかりの大胆さで耳の穴をほじくり回す。
ズズズズッ、ギュゴゴゴッ
まるでブルドーザーのような力強さ。だと言うのにまるで痛くない。それどころか黒い綿棒の頭が耳洞の壁に擦りつけられる度に強烈な快美感が背筋を走る抜ける。
妹の指先に僅かに力が込められると綿棒の切っ先が、ズンと沈み込む。奥にある垢の塊を捉えたのだ。それがさらに、グンと入口に向かって動きだすと、グムっと搔き出していく。
「んぅぅ……あっ、そこそこ」
「ここ?」
「そう」
「う~ん、たまらん」
「お兄ぃ、キモイ」
そう言いながらも手を動かし続ける妹。
綿棒に捻りが加わると渦巻くようにして張りついた耳垢がズルズルと
耳掃除というと「綿棒派」と「耳かき派」に分かれるもんだが、俺は断然「綿棒派」だ。
耳かきには出来ない柔らかな肌ざわり。先端部分の丸みを活かした全方位攻撃。そして何よりもその
ぐぐぅぅ~~ぅ
綿棒が撓る。
相変わらず無遠慮にぐいぐいと綿玉が耳壁に押し付けられる。その度にジリジリとした
「うぅぅ~~ん」
「キモっ」
「キモいとか言うなよ……っ」
グリリンっ、と綿棒が押し込まれる。サドい発言をしながら容赦なく耳の中を責め立てる。耳の奥にある窪みをグリグリされるのが実に効く。これを無自覚にやってるのだから大したものだ。
「うわ~、汚いなぁ~」
呆れながらゴミ箱にぽいと捨てた黒綿棒にはびっしりと耳垢が張り付いている。
「新しいの使うよ」
「おう、どんどん使ってくれ」
次の一本が耳の穴の中に入っていく。
ズズゥ……
第二波なためか、先ほどよりもやや控えめな音。だが問題ない。大まかな汚れを拭きとった綿棒は、次は細かな汚れを拭きとるために回転を加えられながら耳の穴の汚れを拭きとっていく。
ズズズズゥゥ~~~
脳みそを擽られるような快感に、またもや声が出る。
「あ~ぁぁ~~」
「お兄ぃ、やっぱキモい」
「いや、でも気持ちいいから仕方ないって」
「私が言うのもなんだけど、お兄ぃってシスコンだよね」
「シスコンじゃねぇよ。ただちょっと妹に耳かきしてもらうのが好きなだけなんだから」
「キモ……彼女さんに聞かれたら瞬殺でフラれるヤツだよ」
「もう知ってるから大丈夫。今度、耳かきして、って言ってたぞ」
「マジで?」
「おう、マジ」
「へぇ、寛大な彼女さんで良かったわね」
文句言いながらも嫌とは言っていない。それにしても3カ月ぶりの耳かきは気持ちが良い。
グリングリンと耳の中をかき回される快感に身を
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