夜はヤバい!

白千ロク

夜はヤバい!

 深夜アニメのリアルタイム視聴を終えてさあ寝ようとベッドに入ったが、眠れなかった。三十分戦ったんだけど、全く眠れなかったんだよ。というわけで、夜の散歩をしようと思う。すなわち、アパートから歩いて五分ほどの場所にあるコンビニを往復することにした。これなら帰ったら程よく疲れているだろうから、眠れるかもしれないと踏んだのだ。


 玄関を出てすぐに「んお? 青年、どこに行くのだ?」と声をかけられたのにはビビったが。なんだなんだと辺りを見渡したのは当然だろう。激渋ボイスは足の下の方から聞こえてきたので見てみれば、そこにはネズミがいたようだ。艶めく毛が廊下の明かりを反射している。


「えっ?」

「どこかに行くのだろう?」


 よくよく見るとネズミではないと解る。この色はハムスターだ。キンクマハムスター!


 一応このアパートはペット可なので、誰かが飼っているのが逃げ出したとも考えられなくはないが、喋るハムスターは見たことがない。


「喋るハムスターかあ……」

「ま、我は精霊だしな。人の言葉は理解しているぞ?」


 そうですかと小さく紡いで、ハムスターを掬い取る。いやだって、踏み潰すのは嫌だし。


 端から見ると動揺していないようにも見えるかもしれないが、心臓はバクバクだ。それでも冷静さも残っているのは、『夜は不思議に満ちている』という言葉のお蔭である。どこで見たか聞いたかは忘れてしまったが、夜には不思議な力があるという。だから現代日本に精霊がいてもなにもおかしくはない。


「いまからコンビニに行くんで、なにか欲しい物はないですか?」

「我は肉まんが食いたい」

「解りましたー。はんぶんこにしましょうか」

「うむ!」


 寝間着という名のジャージの胸ポケットにハムスターならぬ精霊を入れて歩を進める。

他にはスマホだけを持っていればいいのは楽でしょうがないな。落としたり電子マネーの残高不足の時は大変だけど。


 肉まんとあんまん、それにカレーまんをひとつずつ買い、全てはんぶんこにして胃袋に収めた後、精霊は「楽しかったぞ、青年」と激渋ボイスを残して空気に溶けるようにして消えた。


 うん。夜はヤバいわ。




(おわり)

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