孤独に覆われた世界で
白下 義影
プロローグ
プロローグ
その名が世に広まったのは数年前のことだ。
そもそも、孤独病とは通称で、正式名称は
どんな病気かと言うと孤独の人がかかる病気だ。
独りぼっちを感じる人がこじらせると精神的にどうこうなってこの病気になるらしい。
症状は様々で、極端にハイテンションになり人々に絡む、部屋に引きこもり同士をネットの世界に求める、患ったことを何もないように振舞うなど人によって違う。
ただ、全員に共通して言えることは一つ。
超能力者になれることだ。
しかし、どんな能力を使えるかと言うと、本人が孤独を感じないようにする一種の防衛本能みたいなものだ。
大抵の場合、誰もいないのに話し相手がいる、脳内彼氏もしくは彼女が実現するなど他人から見ればかなり怪しくも実害のないものばかり。
さて、そんな病気だがあまりにも聞こえが悪く、さらに患者も増える一方だったので国を挙げて対策をとることとなった。
その一つが孤独病を世間に認知させること。
そして、孤独病の人々に積極的にコミュニケーションを取り、孤独でないことを実感させること。
こうして孤独病の人を減らしていこうと考えた。
そこでまず、国は徹底的に孤独病、予備軍の人を検診で突き止めた。
検診はとても簡単なもので、214 個のマーク式の質問に答えるだけでほぼ 100 % 診断できた。
大体どの年代にも一定の割合で存在することが分かったが、強いて言うなら、思春期に当たる中高生と高齢者が特に多いことが分かった。
次に国が行ったことは、孤独者に対する法律を作ったことだ。
簡単に言えば孤独者に優しくしましょうだとか、優遇させましょうとか、そんな子どもだましみたいなものだ。
それでも最初は効果があった。
一年間で半数の人が孤独病患者ではなくなったのだから。
しかし、今思えばその法律がこの事態を招いたトリガーだったと思う。
孤独者の割合が減ったことは前に述べたし、事実だ。
ただ、孤独者による犯罪が増えたことも事実である。
孤独者を優遇するあまり、彼らに窃盗や侵入、性犯罪、中には殺人が半ば許される状態となっていたのだ。
特に性犯罪は酷く、孤独者が孤独を感じられなくなると言う理由から裁判で無罪判決を勝ち取る事例までできてしまった。
つまり、孤独病を理由に彼らは何をしても良いことになり、逆に被害者は泣き寝入りすることになった。
そこで世間の堪忍袋の緒が切れた。
日本各地で孤独病者を優遇する法律の撤廃運動が起き、国会前では機動隊と衝突する事態まで事は大きくなった。
更にこの運動は大きくなり、しまいには孤独者を排除することを口に出すようになった。
そう、もう世論では孤独者は犯罪者となってしまったのだ。
国も最初こそはこの運動を止めようとしたが、選挙も重なり断念。
結局孤独病を抱える人を排除する団体を作ることとなった。
その名は
聞こえこそいいが、実態は患者を世間から隔離することが仕事だ。
それは施設に収容と優しいものから、処刑と言う残酷な手まで…。
さてさて、それで事態が収まれば良かったのだが、そうは上手くはいかないのが現実だ。
多くの孤独者は施設に隔離されたが、一部の者は抵抗した。
その一つが地下鉄ジャック事件。
孤独者の一人が東京都内の全地下鉄をジャックし、脱線事故を起こさせた孤独病者三大事件の一つ。
この事件で世間が震えあがったのはあまりの死傷者の多さでも犯人が想像以上の学歴だったからでもない。
人を操る超能力。
この一点だ。
これは世の人々が思っていた孤独病者のちょっと変わった能力の想像をはるかに上回る能力だった。
犯人はこの能力を使い、会ったこともない運転手を催眠状態にかけ、地下鉄を脱線させ、世に残る悲劇をなした。
この後、犯人は射殺され事件は終わったが、人々に恐怖と悲しみを残す事件となった。
残りの二つは老人ホーム爆破事件と小学校立て籠もり事件。
被害の規模や人数は地下鉄事件より小さいが、それでも心が痛む事件だった。
そんな三大事件の他に孤独病者にまつわる事件は多々存在する。
精神性交友関係障害者保護施設からの脱走もその一つである。
特に機関の関係者にとっては不名誉な事件で、上の立場に立っている人たちは全員その職を辞めることになった出来事でもある。
脱走したのは当時 18 歳の男子高校生と 14 歳の女子中学生。
現在では相当の額が賞金になっている指名手配の二人組だ。
いや、『だった』の方が正しいのかもしれない。
女の子の方はここ数年目撃情報がなく、存在だけが独り歩きしている。
だが、多くの人が死んだのだろうと思っている。
対して男の方は機関が血眼になって探している。
そんな彼の名は
今日もどこかで孤独に生きているのだろう。
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