深夜の多数の出会い

七霧 孝平

出会い

ある日の夜、俺は寝付けなかった。

なんのことはない、ちょっと昼寝をし過ぎて夜眠れないだけなのだが。


眠れないままボーっと過ごすのもなんなので、

夜中にも関わらず、俺は外に出ることにした。

散歩でもして帰ってくれば、疲れて眠くなるだろう。


夜中だが、街灯やコンビニの明かりで、外は十分まぶしく感じる。

特にコンビニの明かりは夜中はまぶしすぎるくらいだ。


少し裏道に入り、暗さを体感しに行く。


「ニャー」


「お、ネコだ」


暗いのでよくは見えないが、うっすらと猫の影が見える。

そんな中、猫をよく見ようと、歩いていると……。


「いって!」


「あ、すいません」


人にぶつかってしまった。しかも……。


「おうおう、にいちゃん。どこ見て歩いてやがる」


うわ~……、いかにもな強面の人。


「すいませんでした!」


俺はやや大袈裟気味に頭を下げ、すぐさま逃げる。

男もさすがに追いかけてはこなかった。


「ふう……」


猫は見れなかったが、仕方がない。


そのまま道を変えて家に帰ろうとして、少し前にいる女性と目が合った。


「すみません」


おっと向こうから話しかけられるとは。


「この辺りでネコちゃんを見ませんでしたか?」


「ネコ?」


もしかして、さっきちらっと見えた猫だろうか?


「さっきあっちの方で、それっぽいのいましたけど」


「本当ですか! 案内をお願いしても?」


案内したいが、さっきの男はもういないか気になる。

しかし女性のキラキラした目が断りずらい……。


「わかりました。こっちです」


女性を連れ裏道に戻る。男は……よし、いないようだ。

さて、猫は……おっ、まだあそこに影が見える。


「あれ……ですかね?」


「ああ、そうです! クロちゃん。おいで~!」


クロちゃんと呼ばれた猫は、俺がいるからか少し警戒したが、

女性の声と手に持っているエサに釣られこっちへ来た。


「ああ、クロちゃん。もう勝手にどこかに行っちゃダメよ」


「じゃあ、俺はこれで……」


猫を撫でている女性を見つつ、俺は帰ろうとするが……。


「あの、お礼をしたいのですが」


「別にいいよ。ただの散歩中だし。それに夜中だし」


「じゃあせめて名前を」


「名前? 俺は――」


女性に名前と連絡先を告げて去る。


この縁で俺は、この女性と親しくなるのだが、

それはまた別の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深夜の多数の出会い 七霧 孝平 @kouhei-game

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ