ワン・オブ・ナイン
TOKU MATSU
プロローグ
夜の帷が降り、辺りは暗闇になっていた。
空には紅い三日月が浮かんでいたが、辺りを十分に照らすには程遠かった。
風が吹く度に木々がざわめく。
その場所は木が鬱蒼と生えている森だったため、多少月明かりがあったとしても、木々の下は完全な暗闇となるのだ。
ただ、弱い月明かりによって、空に向かう木々の葉が黒い輪郭によって少しだけ形が浮かび上がった。
その暗闇の茂みを二つの人影が動いていた。
「はあッ、はあッ、はあッ」
「頑張れ、ボタン!もう少しでこの森を抜ける。そこを抜けたら・・・」
そう言った瞬間、何かが二人を狙って放たれた。
「伏せろ!」
二人は瞬間的に地面に伏せた。
ダ、ダ、ダン、と言う音がして、木に太い釘のような物が刺さった。
「くそッ!向こうに回られた!道を変えよう!」
「兄様!」
「心配するな。きっと逃げ切れる。だが・・・」
そう言って少年は妹にある事を伝えた。
少年は歳の頃は15歳くらいかそれ以上か。
黒髪で、口を黒い布で多い、黒装束に身を包んでいた。
少女の方は、歳の頃は12、3歳。
黒い短めの着物を着て、黒いニーソを履いていた。
兄と同じように口は黒い布で覆い、髪は紅い紐でポニーテールのようにして結んでいた。
「兄様!それは!」
「いいから言う事を聞いてくれ!いいか、絶対に守れ!いいな!」
「兄様・・・」
「来たぞ!走れ!」
そう言うと、兄妹は再び走り出した。
ずっと暗闇が続いていたが、幼い頃から積み重ねた修行により、二人は暗い場所でも難なく走る事が出来る。
だが、それは追って来る者達も同じであった。
次第に二人は行手を阻まれて、ついに高い崖の上に追い詰められた。
漆黒の闇で風景は見えないが、崖の下には湖が広がっている。
時々、湖面に立つ小さな波が弱い月明かりを反射して、キラキラと光った。
二人は広場のような場所で立ち止まってしまい、後ろへと振り返った。
兄のカイトは妹のボタンを庇うようにして立ち、森に向かって身構えた。
「そろそろ諦めていただけませんかね?坊。」
森の中から、黒装束に身を包み、片目が潰れ、顔のあちこちに傷をつけた男が現れ、ニヤニヤしながら二人に迫った。
「諦める?何故諦めなければならない?」
「これも掟なんでね・・・こうせざるを得ないんでっさ・・・」
「何が掟だ!親父を裏切ったくせに!」
「裏切り?何をおっしゃいますか?」
そう言って、その男は片手に短刀を持ちながら、ジリッ、ジリッと間合いを詰めて来た。
「私は何も裏切ってなぞおりませんぜ?」
「父上を殺したくせに・・・」
「はて?なんの事ですか?私はおこぼれをお聞きしたまでですよ?殺すなんぞしませんよ。」
「世迷言を・・・」
「世迷言ですか?」
そう言ってその男は、いやらしい表情でニタつきながら、トントンと短刀で肩を叩いた。
気付くと黒装束の男が何人も現れた。
二人は完全に囲まれてしまった。
「さあ、出していただけませんかね?面倒をかけさせねえでくだせい。」
カイトは追手の1人が人差し指を組んで術を放とうとしているのに気づいた。
「させるか!」
そう言って、十時型の手裏剣で術者に向かって放った。
しかし・・・
「甘いですぞ。坊。」
そうニタ顔の男が言うと、カイトは別の男が術を放とうとしているのに気付いた。
「しまった!」
カイトはそう叫び、後ろに隠していた妹のボタンに体を向けた。
瞬間、爆発が起き、身体が吹き飛ばされた。
「ボ、ボタン・・・」
「あ、兄様!」
カイトは頭から血を流しながら、崖から落下しかけているボタンの手を必死に握った。
「素晴らしい!素晴らしい兄妹愛だ!感動です!」
ニタ顔の男はそう言ってパチパチと手を叩いた。
「しかし・・・行けませんよ、それは・・・」
そう言って刀を抜くと、カイトの背中に突き刺した。
グサッ!
「!」
「兄様―ッ!」
カイトは血を吐き出し、そして妹を見ると優しく微笑んだ。
そして口をゆっくりと動かし何かを呟くと、握っていた手を離した。
「兄様ーーーーッ!」
そう叫びながら、ボタンは湖に向かって落下して行った。
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