【オシゴトNo.6】刃渡18センチ
ポタッ ポタッ
「痛つ…」
左手を押さえて、顔が悶絶する。
「だ、大丈夫?」
ヒロコ先生が心配して駆け寄ってきてくれる。
すでに、僕の足下には、赤い点々が出来ている。
「とうふ先生、これ使って!結構血出てるよ!」
何やら、可愛いカメのイラストが描かれたハンカチを差し出してくれた。
こんな可愛いハンカチを僕の血で汚せない…
そう、僕は手を深く切ってしまったのだ。
普段使い慣れていない包丁で・・・刃渡18センチの。
【1日前】
「とうふ先生、明日、調理実習の事前やっときましょう」
「あ、明日ですね。わかりました。材料のほうれん草は用意しておきますね」
家庭科の調理実習は、気温が上がる前にしてしまう。食中毒のリスクを軽減するためだ。
そして、理科の実験もそうであるが、必ず事前に教員で練習しておくのだ。これは、器具がちゃんと使えるかや、教える流れを確認するためである。
というわけで、明日、ほうれん草のおひたしを作ることになった。
【そして今に至る】
普段、自炊などしないから、ざっくりとやってしまった。
左手の人差し指から血が止まらない。
久しぶりにこんなに血を見たので、顔から血の気が引いて、豆腐のように白くなっていくのがわかった。
「これぐらい、絆創膏貼っとけば大丈夫です」
押さえながら強がっておく。
「片付けはしとくから、とうふ先生は休んでていいよ?」
「そんなわけには、いきません。すぐに、片付けましょう」
おひたしは、まあまあ上手く作れた。
道具の使い方が良くなかった。これは、子ども達への指導に活かせそうだ。
包丁の下に指を入れるな
と。
ヒロコ先生と、職員室に戻って、帰り支度をしていると、机上の手紙に目が止まった。
うちのクラスのサヨコからもらったものだ。後で見ようと思っていたけど、何やら暗号のようなものが書いてある。
「期限は今週中だよ!」
と言っていたが、
今日は手を切ってメンタル落ち込みまくりだし、明日考えよう。
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