先生のヒミツのオシゴト♪図鑑
TN太郎
【オシゴトNo.1】届かない恋文
『好きです。どうしても2人きりで話がしたいので、みんなが帰った後、音楽準備室に来てください』
可愛い花柄の手紙に、こう書かれていた。
山ノ上小学校5年2組の教室、教卓の上に一通の手紙が置かれていた。
今日は4月4日。まだ、始業式すら終わっていない。じゃあ、この手紙を置いたのは誰か。
そもそも僕は昨日赴任してきたばかりだぞ?
しかし、このクラスの担任は僕だ。
きっと僕に渡そうとして、教室にいなかったから、教卓の上に置いて行ったのだろう。
【1日前】
赴任初日、職員室では職員が1人ずつ前に出て自己紹介が始まる。
「海ノ下小学校から赴任してきました。佐藤文哉(さとうふみや)、28歳です!前の学校では『とうふ先生』と呼ばれていました!よろしくお願いします」
太陽も嫉妬するぐらいの笑顔で挨拶した。
人は第一印象が8割ということを聞いたことがある。最初から元気よく挨拶することは大切だ。
しばらく他の先生の挨拶が続いた後、学年ごとに分かれて打ち合わせとなる。
「とうふ先生って、面白い名前ですね。豆腐みたいなんですか?」
隣の席に座ったこの先生は、後に5年1組を担任するヒロコ先生だ。年齢は聞いていないが、32、33ぐらいだろうか。肩まで伸ばした髪は茶色だが、チャラい感じはなく、どちらかというと清楚な印象を受ける。
「実はそうなんすよ。すぐに豆腐みたいに崩れるんですよ。メンタルが(笑)前の学校でも、保護者からの電話ですぐにボロボロになってました(笑)」
「でも、豆腐って、和風、洋風から中華までどんな味付けにも合いますよね。きっと、とうふ先生ならどんなクラスでも馴染めますよ」
フォローも上手い。
少しキュンとした。
さあ、これから教材を選んで、児童の名簿作成、指導要録の確認、名前貼り、教室の机チェック、各種お便りの作成などなど、、、始業式までにしなければならないことは山積みだ。
とりあえず今日は職員室で出来ることをして、教室は明日見に行こう。
【そして、今に至る】
教室を、開けてみたら、さっそくこの手紙だ。
この教室に入れるとしたら、先生達だけだ。でも、こんな手紙を置いていくだろうか。
もしかして、ヒロコ先生?
でも、昨日会ったばかりだぞ?
そんなこと、あるはずがないだろう。
誰かのイタズラか?
それともストーカー?
差出人不明の手紙に、いろいろな思惑が交錯し、不安で膝から絹豆腐のようにボロボロと崩れていってしまった。
「とうふ先生?」
うつ伏せに寝転んでいる僕におそるおそる声をかけてくれたのは、廊下を通りかかった教頭のハヤシ先生だ。50ぐらいのダンディーなおじ様だ。
「あ、え、まあ」
なんとか。声を出す。
ハヤシ教頭は、不思議そうに近寄って来て、、僕の持っている手紙に目を落とす。
「あ、これは」
すぐさま握りつぶすが、時すでに遅し。見られてしまった。
しかし、ハヤシ教頭は、まるで手紙の存在を知っていたかのように
「ああ、それね…」
え、もしかして、、、頼むから教頭からでないと言ってくれ。
「年度末に先生達で掃除した時に、児童の机の中から出てきたんだよ。ほら、修了式の後に、児童の持ち物が出てくることってよくあるでしょ」
確かによくある。
僕も一週間前までいた学校で、児童の机の中から消しゴムやら、定規やらいっぱい出てきた。
「それで、名前のあるものは本人に返したんだけど、それ、名前がないからどうするか後で考えようと思って、教卓の上に置いといたんだった。ごめんごめん。僕が預かっておくね」
寝転んでいる僕からサッと手紙を受け取ると、
「いつまでもそんなところに寝転んでると、身体痛くなるよー」
と言って、去って行った。
スーツの後ろ姿がカッコいい。
その時、隣の教室からヒロミ先生が顔を出して、
「とうふ先生ー。今あいてる?学年通信の相談したいんだけどー?」
「はーい!今行きまーす」
僕宛じゃないと分かったら、少し立てるようになってきた。
願わくば、あの手紙が本当の相手に届きますように。くしゃくしゃにしちゃったけど…
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