#10 子恩 - 私と父の距離

 ほとんどの養子になった子は、本当の父親と母親が誰であるかを知りたがるが、私は今の父に私が彼の実の娘ではないことを誰かが思い出させるのではないかと恐れているだけだ。だから聞くのが怖かった、あらゆる質問をすると、私たちの間には決して超えられない距離があることを父に思い出させるのではないかと心配していた。

 私の父は、一般人が想像できないほど完璧である。彼は四十歳だけど、良い体型を維持し、誰もが羨むキャリアと収入を持ち、そして何より、彼がとても頭が良い。

 宿題を教えてもらった時だけ、私たちは血の繋がりがないことを思い出す。どんなに難しい問題でも「これは簡単でしょ?」といつも言っていたから。

 彼は新聞スクラップ、写真アルバム、そして何年、何月、何日で何をしたかを書いたノートを持っている。「浄水器交換」、「婉真人間ドック」、「子翔と遊園地へ」など詳しく記載した。

 婉真は父の亡くなった妻であり、子翔は会ったことないお兄ちゃんであることは知っているが、日記のように見えないこれらのノートは何に使うのかはわからなかった。いつも施錠されていた父の書斎は言うまでもなかった。

 時々はこっそりとこれらの写真を覗いてみると、写真の中の父はとても嬉しそうに笑っていた。今みたいに笑っていても人生の浮き沈みが顔に出て疲れた顔ではなかった。

 おばあちゃんはいつも、父は昔の火事の記憶に閉じ込められたようで、一度もそこから出てこなかったと言っていた。

 本当の両親よりも、父の過去が気になる。時々、私は空想する。もし子翔お兄ちゃんがまだいるなら、父は私を捨てるのではないか?子翔お兄ちゃんがいないから、父のそばに居続ける価値があるのではないか?

 学校の同級生はVRメガネとメタバースについていつも話し合っているが、父は私がメタバースに関連するものに触れることを固く禁止している。でも、父の書斎にVRメガネがあることを私はのぞきみた。

「VRは子供の視力に悪い」と常々言っていた。

 おばあちゃんはこっそり私に、知らないおばさんが家に来たことあるかと尋ねた。私が唯一覚えているのは掃除のおばさんだけだった。父に彼女を作るように勧めてあげてとおばあちゃんに言われたが、彼女の言うことを聞かなかった。父の心には既に死んだ婉真おばさんと子翔お兄ちゃんが住んでいるので、もう一人のおばさんが来たら、父の心の中にはますます存在感が小さくなるではないか?父の唯一になるとは思ったことはない、何故ならば私は自分が唯一ではないとわかっているので。

 でも、彼らは死んだ。私だけが生きている。このように自分を慰める。

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