8:成人になったばかりのガイドはこんなにいい香りがする(4)

 馮艾保が上級センチネルだけど、誰も彼のスピリットアニマルを見たことはない。彼のスピリットアニマルが失踪して、マインドスコープMind-scopeが修復不可の程度まで崩壊したという噂まで流れている。もちろん、これらの話はどこから来ているか分からない噂だ。なんと言っても、今までこれほど極端な状況下で正気な生活を維持できたセンチネルがいないだから。

 さらに、彼の相棒と特捜班の班長が漏らした手がかりから見れば、馮艾保のスピリットアニマルは正常かつ健全であるはずだ。けれども何故かほとんど人の前で現れることはない。集団健康診断の時でさえ目撃されることはない。

 そのため、多くの人は依然として馮艾保のスピリットアニマルに欠けがあると思われがちだ。なんと言っても、彼は風変わりであり、精神障害があるとは言われてもおかしくない。

 とりあえず、これは中央警察局の人たちと馮艾保の多くの知り合いが彼に対する共同認識だ。もちろん、どうして彼の身体能力と五感がほかの人よりダントツで優れているか、そして毎年の犯罪案件解決率が最も高いという事実を考えない限り、すべてのことが非常に合理的だ。

 これが、三人のセンチネルは馮艾保が自分のスピリットアニマルの話を提起したのを聞いて、こんなに驚いた理由だ。スピリットアニマルという言葉はこの人の口から言い出すのはおかしかったからだ。

 恐れおののくほど猛烈で凶暴に攻撃していた、蘇小雅がこのカテゴリの動物に対する認識を転覆させた大型のゴールデンハムスターは、本体が来て、スピリットアニマルの行動をコントロールしたせいか、突然攻撃性が弱くなった。ロシアンブルーに踏まれてぺたんこになって、ハムスターもちになってしまった。ゴールデンハムスターがかわいそうに蘇小雅に向けてジージーと鳴った。

 こっ……これ……これは?蘇小雅が呆気にとられて、無意識に自分のスピリットアニマルを制御して、爪を収めさせた。どっかおかしいと思うけど、すぐには何も言えなかった。それに対し、ロシアンブルーは実力を十分発揮できないことにイラッとしているという目線で彼をちらっと見て、爪を出して、湯たんぽの形になっているゴールデンハムスターの体に二回掻いた。そして、傲慢に頭をあげて本体の横に足を踏んで戻った。

 正直に言うと、このゴールデンハムスターは、まん丸でかわいいが、普通じゃないほど丈夫で、猫の爪で毛一本も切り落とされなかった。そこにずっと横たわっていて、まるで死んだふりをしているかのように、動こうもしないままだ。

 オフィス内に気まずい雰囲気が漂い、ずっと寂静のままだ。

 この時、蘇小雅が初めて扉の方にいるセンチネルを直視した。眉を顰めて、何か汚い物を見たかのように、視線をすぐに逸らした。

 精神力がそんなにかわいいのに、なんで本体の方はセクハラする老いた男の人だ!その男が皆の前で勃起して、それと同時に蕩ける笑顔を浮かべている。この人を入獄させるべきと思う人はいないか?この人を自由にあちこちに行動させるのは大丈夫なのか?危ないじゃないか!

 理性的に考えれば、男の勃起には原因が不明な場合があると蘇小雅も知っている。ぼんやりしているうちに勃起してしまう場合もあるし、歩いている時もいきなり勃起してしまう場合もある。だから、正しく判断をしたいなら、その人の顔を見ればいい。その表情から生理的な勃起か、メンタル的な勃起かを区別できる。

 どうやら扉のそばに立っているセンチネルはメンタル的な勃起の方だ。頭の中で常にエロいことを考えている人なら、どんなに格好良くても卑猥に見えるのだ。

 馮艾保が突然笑い出した。大人の男の魅力に魅せられて、数人の社会に出てない若いガイドは顔が赤くなって、ドキドキしている。三人の大人のセンチネルは後ろ首の毛が逆立ち、警戒して馮艾保に注目している。

「あの子を借りてもいいですか?」これらの人の態度を気にせず、時間も無駄にせず、蘇小雅に指さして案内者に直接に聞いた。

「何をしますか?彼は卒業したばかりで、将来私たちのところに来るかどうかはまた分かりませんよ」案内者は気が進まないのだ。彼にはこれらの若いガイドを守る責任と義務がある。馮艾保というガイドとボンディングしていなくて、特に上級なセンチネルは若いガイドにとってはあまりにも危険だ。

「ご安心ください。彼には何もしませんから」馮艾保は両手を広げ、無実を訴える姿を見せた。「相棒が近くにいるし、悪いことをしようとすれば、彼がすぐに私を倒すことができるからです」十日か半月ぐらい自立して生活できないほど倒せるのだろう。

 案内員は相変わらず迷っていて、蘇小雅に向けて「蘇くん、どう思いますか?いやだったら言ってください。無理しなくていいですよ」

「別にいいですけど」蘇小雅が肩を竦めた。彼は自分の能力をよく知っているので、センチネルを恐れることはしない。成熟したセンチネルを怪我なしで倒せなくても、とも倒れにするのは問題ない。

 目の前にいるこの肌白く、無表情な顔をする若いガイドの頭にある決断力と残酷な考えを知る人は、この場には一人もいなかった。だから彼が馮艾保をまっすぐに直面しているのを見て、心配してあげていた。

 二人がオフィスを出ると、馮艾保が頭を若いガイドに向けて、彼の左耳のすぐ傍で軽く言った。「ちゃんと付いてきてください。静かな場所でゆっくり話をしましょう」

 蘇小雅は一瞬固まったが、逃げたい気持ちを抑えた。センチネルの熱すぎた息に吹かれて、左耳は熱くなった。

「わかりました」右手に力を入れて握って、彼は自分の左耳を触ろうとするのを我慢した。センチネルを殴ることに力を使うのは無駄だと自分に注意した。足元にロシアンブルーがいる蘇小雅は無理矢理頑張って、自分の冷静さを保った。周りにゴールデンハムスターが走り回っている馮艾保の後について、曲道を経て、暫くすると誰も使っていない会議室に辿った。

「どうぞ、お入りください」馮艾保は紳士的にドアを開け、英国の貴族に仕える執事のような招くジェスチャーをした。

 蘇小雅は彼に一目してから、下半身の状態を確認した。勃起の現象が消えて、今は平たく見えた。その次に大人のセンチネルの顔を見つめた。端正でラインが鋭い顔には笑みがあり、その非常に美しい目は湖のように、底まで見通せるほど澄んでいる。

 大丈夫か?直感が警告を発している。蘇小雅は少し迷っていて、目の前のこの人はとても危険だと思うけど、よりによって格別に魅力がある人だ。自分のスピリットアニマルであるロシアンブルーは馮艾保に寄せている。蘇小雅はロシアンブルーをコントロールできず、猫が体で男の足を軽く擦っていた。

 どうでもいい。考えすぎても意味がない。

 ゴロゴロと喉を鳴らすロシアンブルーを見て、舌を軽く打ってから、蘇小雅はやっぱりその会議室に入った。

 馮艾保が後ろから入ってきて、扉を閉じてからカチッと鍵をかけた。

「何をするつもりですか?」蘇小雅が用心深くなり、すぐに馮艾保に振り向いた。エンパスempathが飛び出し、目の前のセンチネルに凶暴に振舞って威嚇した。

「何もしませんよ。緊張しないで」エンパスempathを見ていないように、ニコニコして蘇小雅に寄ってきた。

「これははったりだと思いますか?」蘇小雅が言いながら、一本の太いエンパスempathが馮艾保の足から二センチ手前の地面にたたき落とした。パタッと、聞いた人を思わず首を縮めさせ、体を震えさせたぐらいの勢いだった。地面から塵が舞い上がり、ゆっくりと煙のように消えていくのが見えるかのように感じさせた。

 馮艾保はちっとも足を止めるつもりはなかった。美しい顔の笑みは仮面のように、彼の顔立ちに固定している。その様子は極めて不気味だった。穏やかで冷静な性格の持ち主で、強力な精神力というサポートを有する蘇小雅でさえ、馮艾保と真っ向から対決することができなく、数歩後退することを余儀なくされた。

 男の革靴が厚いカーペットの上、足音を立てずに踏んでいたが、蘇小雅は硬いかかとが大理石の床にぶつかる音が聞こえた気がして、心臓も相手のリズムに従って鼓動していた。わずか数秒間の対決だが、彼はコテンパンに負けた。

 蘇小雅は慌てて会議テーブルの反対側に後退し、エンパスempathも攻撃から防御へと変わり、自分の全身を水も漏らさないように厳重に警戒した。けれども彼のスピリットアニマルであるロシアンブルーは悠然として、センチネルの足元に転がって、撫でるのを求めるまでしていた。

 裏切り者!

 センチネルは強く押し付けず、若いガイドに三歩ほど離れて安全感のある距離を保ってあげた。彼がかがんでロシアンブルーを抱き上げ、椅子を引き出して座り、猫を膝の上に置いて撫でていた。

「僕のスピリットアニマルを普通の猫として撫でないで!」蘇小雅は怒りで顔が赤くなった。このセンチネルはあまりにも恥知らずだ!スピリットアニマルが人の最もプライベートな部分であり、普通、他人のスピリットアニマルをこんな風に恣意的に触れるなんてはしないはず。失礼だ! 下品!キモイ!馬鹿野郎!

 馮艾保は無実を訴える表情で手をあげて降参するポースをし、言われた通りに猫を撫でていた手を止めた。しかし、ロシアンブルーにも自分なりの考えを持っている。猫は動きが敏捷で長いしっぽをその男のシャープなラインを描く腕を絡み、静かに「止めないで」という意思を伝えていた。

「いいです…か?」馮艾保がマナーを守って、こう尋ねた。

「いけません!」蘇小雅が慌てふためきながら、激怒して断った。自分のスピリットアニマルをじろりと見て言った。「戻ってくれ!人に媚びを売らないで!」

「にゃ~」人を嬉しがらせるため、ロシアンブルーは長く延ばした柔らかい鳴き声を上げた。しかし、それは蘇小雅のためではなく、甘える対象は馮艾保だった。

「取り換えと考えれば?」馮艾保は依然として優しい口調で彼の意見を求めていた。

「取り換えって?」蘇小雅は眉を顰めた。目の前にいるこのセンチネルはどう見ても悪い企みを持っているようだ。この中央警察局に働くなんかは死んでもしない。

「私のネズミとあなたの猫」馮艾保は蘇小雅の足元の方向に指を差した。

 ネズミ?蘇小雅は一瞬驚いたが、すぐに俯いて自分の足元を見た。巨大でぽっちゃりしたゴールデンハムスターが安心して彼の足元に丸まって、湯たんぽのような体の半分を彼の足の甲にのせてぐっすり眠っていた。

 これは……気まずい感情が上がってきて、蘇小雅は自分の顔が熱くなるのを感じた。恥ずかしさのせいでエンパスempathが捻じっている。

「どうしてこうなっているのか分かりません……」

「いいですよ。私もこいつの管理が上手くいきません」馮艾保は大人の寛容さを見せ、膝の上に横たわっているロシアンブルーの背中を優しく撫でて、ぷんぷんしていた若いガイドを上手く慰めた。「あなたに来てもらうには、いくつかのことについて話し合いたいからです。ご安心ください。全部、真面目な話です」

 飼い主までなでなでされたので、蘇小雅の勢いも完全に失った。彼は頬を掻いて椅子を引き出して、馮艾保に向かって座った。

「何のことですか?」ハムスターの体温がかなり高いので、足の上にいると、暖かく柔らかい感じがした。蘇小雅の冷たく、いつも無表情な顔も少し緩めた。

「まずは、私との相性をテストしてみませんか? 」馮艾保は意味のない話を省いて、単刀直入して話を始めた。蘇小雅が拒否しようとしているのを見て、彼はすぐに話を続けた。「私は特捜班の刑事で、上級センチネルです。ガイドの相棒がいるのですが、彼は結婚して仕事をやめるつもりです。来月です。現実的な話をします。私は新たに相棒を確保しなければなりません。但し、下級ガイドは私に対して役に立たないのです」

「特捜班に加入できるガイドは皆上級ガイドだと思います」蘇小雅はやっぱり断ろうとしている。今日、中央警察局を見学することは予定外だった。彼は法の執行機関よりも、司法機関の方に入りたいと考えている。

「それはそうですが、私のスピリットアニマルを見えないと上級ガイドであっても意味がありません。私の相棒と上司以外、うちのネズミちゃんを見えるガイド、あなたは三人目です」話し上手な馮艾保はわざと蘇小雅をおだてあげることをせず、穏やかで媚びない口調で話しを進めていた。しかし、その話を聞いて、蘇小雅は言葉に言えない気持ちよさを感じた。

 ということで、蘇小雅はその説得に少し抵抗できずに動揺した。

「しかし、私はもともと法の執行機関に興味を持っていませんよ」幸いに、彼は自分の決心をすぐに強化させ、そしてまた勧誘を断った。

「これはあなたと話したい二番目のことです。特捜班にインターンとして、一つの事件の捜査に参加しませんか?」馮艾保は膝の上のロシアンブルーを優しく撫でた。彼の桃花眼は深く、まるで将来を憧れる天真爛漫の子供みたいに熱意に溢れている。「いくつかの機関を見学してから、インターンとして実習する機会が三回あって、特定の部署に入って一か月間実習できると知っています。司法機関に入りたいと言っても、法の執行機関の仕事内容を本当に理解ができているとは言えないでしょう?経験積みとして、一度やってみませんか?私が少し強引だと思うかもしれませんが、あなたを本当に必要としているので、一回でもチャンスをくれることはできませんか?」

 押しが強いけど、可哀想な一面を見せている。決定権を蘇小雅に渡しているようには見えるが、手綱をやっぱり馮艾保が自分の手で引いていてる。

 学校から卒業したばかりの蘇小雅は、温室で大事にされて育てられた小さな花のようなものだ。目の前にいるこの自分の外見をうまく利用して、優れた説得力を持っているセンチネルに抵抗することはできなかった。

 彼は確かに法の執行機関が嫌いなわけではない。ただ、家族のほとんどが司法機関で働いているため、司法機関に入りたいと思っているだけ。

「実習をして、やっぱり興味がないと思うなら、僕の断りを納得してくれますか?」蘇小雅は自分がこのセンチネルの話に従っていて、最後のあがきをしていたことをちっとも意識をしていなかった。

「それはもちろん。最終的にはあなたの選択を尊重しなくてはなりません」馮艾保が真摯な微笑みを見せた。とても誠実な口調は、後ろ暗いことがないように聞こえた。

「そうなら、いいでしょう……」蘇小雅は最終的に敗北した。躊躇はしていたが、先方の提案を同意してしまった。「これからインターンシップの応募書類を提出します。特捜班の者だと言っていましたね?」

「馮艾保です」センチネルが自分の桃花眼を細めて、嬉しくてたまらない表情で自分の名刺を出した。「ここにはプライベートの電話番号もあるので、いつでも連絡をしてください」

「はい……」蘇小雅が頷いて名刺を受け取った。それに次いで、向こうが畳まれていた申請書を押してきた。蘇小雅は困惑した顔で馮艾保を見た。

「ついでに記入をしましょうか?手間も省けますし」馮艾保が指でそのフォームにある「インターン申請書」という字を叩いて、ちっともやましいところがあるのを感じさせないほど自然な態度で言った。

 確かに、申し込みたいと決めたなら書類を早く提出しても結果は変わらないと蘇小雅は少し考えた。合意したので、約束を守らなければならない。

 そこで彼がペンを取り出し、素直に申請書に記入した。字を間違っていないかを確認する前に、申請書が馮艾保に取られた。「心配はいりません。申請書を代わりに提出します。インターンシップは最短で三日以内に始められます。もし、興味があれば、今すぐ私と現場に行って事件を捜査することもできます。ちょう出掛けるところです。」

「そんなに急がなくてもいいと思いますが……」蘇小雅はまだ少し抵抗をした。同意することと実際に仕事を始めることは別だから。

「本当に行きたくないですか?二人のセンチネルが死亡した事件です。それはホワイトタワーの卒業ダンスバーティで起こったのですよ……興味深いと思いませんか?」馮艾保はロシアンブルーを撫でながら笑顔で尋ねた。

 蘇小雅は厳しい目つきで彼を見つめていて……自分が騙された気がした。このセンチネルは人の心を弄ぶ方法をよく知っている。しかし……

「うん、興味深い」くそっ! 彼の好奇心がくすぐられた!

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