6:成人になったばかりのガイドはこんなにいい香りがする(2)
しかし、離職するまでまだ一か月もある。結局、何思は白目を見せ、相棒の方に行って、彼の肩を軽く叩いただけ。「お前、硬くなったよ。トイレに行って、何とかしないか」と言った。
正直なところ、相棒フィルターをかけなくても、馮艾保のあそこは見て分かるように、重砲と言えるサイズのものだ。だから、今の状態になって、なおさら見るに堪えないのだ。何思は検死報告書を彼と共有し、ついでに事件の状況を話し合おうと考えていたが、今、その気がなくなった。
とても理解できないことは、この退屈で刺激源がないオフィスにおいて、どんな性格の持ち主だから理由なしで勃起できるだろうか?なお、馮艾保は陶酔で満足しそうな表情をしている。
馮艾保の体が軽く震え、焦点を失ったような空虚な眼差しは緩やかにピントを合わせた。門のあたりからゆっくりと、渋々と何思のその何とも言えない表情をしている顔に戻してきた。
「あるガイドの匂いを感じた。成年になったばかりもの。ピュアで、強烈で、スイートで、そして気が強いのだ」馮艾保は憧れの恋人に出会った少年のようで、柔らかで、恋心を満ちた口調で述べ、話の最後には薄ら笑いが伴った。
「とても矛盾しているね」何思が無表情な顔でコメントした。
「確かにとても矛盾しているね」馮艾保は首を傾けて何思を見つめた。自分が変な話をしていることに気付いていなかった。「今日、卒業したばかりの若いガイドが警察局に見学してきていたか?」
卒業シーズンを迎えて、軍隊、警察、情報関係の人たちは人材の奪い合いをする時期だ。この期間に入ると、彼らはまるで八百年も口に食べ物を入れていない悪龍のように、貪婪な目差で一人一人のフレッシュで生き生きとした若者に注目している。
通常、ガイドはセンチネルより一歩早く職場に入る。この期間中、彼らは自分の志向を確認するため、多くの時間をかけて、いくつかの政府機関を見学する。
もちろん、方向性が分かった場合、見学の途中に加入同意書にすぐ署名するガイドもいる。
「分からない。俺の担当職務とは関係ない」何思が肩をすくめ、椅子を引いてきて、馮艾保の向かいに座った。
「痛い……」馮艾保が二回スーッと息を吸って、香ばしいガイドフェロモンの酔いからようやく我に返り、白目にだけわずかな充血が残っていた。この現象も先ほど彼が野獣のように、衝動が抑え切れないほど魅了されていたのを示している。
「どうして俺の電話に出なかったのか?」何思は彼の悲鳴を無視した。こいつは頑丈だし、彼のスピリットアニマルにも攻撃をしていなかったから、ガイドの身体的な攻撃はセンチネルにとってはかゆみを掻くようなもの以下だ。
「マナーモードにしてしまった」馮艾保は哀れなふりを止めて時間の無駄をせずにした。仕事に対して、彼はやっぱり真剣で責任感のある人だ。嘘をついていない証拠を示すため、馮艾保は携帯を取り出した。「多分、今朝班長に休みを求めて、拒否されたとき、電話で叱られるのが怖かったと思っていたため、マナーモードにしたからだ」
何思の
「ああ、どうしてそんなに怒っているのか?私はただ……」馮艾保は唇をすぼめ、両手を広げて肩をすくめた。「コーヒーを早く飲まないと、冷めてしまうよ」とても下手な手段で話題を逸らしようとしていた。
何思は彼を白目で見て、コーヒーを取ってきて数口飲んで、それ以上追及しなかった。「汪監察医が言った。二人の犠牲者の死因は薬物が引き起こした激しいアレルギーによる心原性ショックだ」
「薬物によるアレルギー?」馮艾保は眉毛を上げたが、あまり驚いていないようだった。「どんな薬物か、検査で分かったのか?」
「
「当たってみるわ。このガスはドレスから揮発してきたのか?」
「そう……」馮艾保がどうやって分かったのか、何思は聞く気さえなかった。こいつは最初からドレスに注目していたみたい。「これは不慮の事故か、それとも謀殺か、どちらだと思う?」
「ちょっと待ってね。報告書を読み終わってから答える」馮艾保が肩をすくめて、クラフト封筒から報告書を取り出して、一目十行のスピードで読んでいた。
報告書は十数ページもある。各種の検査結果と最終判断を詳細に記載している。
何思はゆっくりとコーヒーを飲んでいた。彼の机にドーナッツがひと箱置いてあった。それは今朝、警察局に来た時、フロントのスタッフから渡されたものだ。新婚プレゼントっていうものだ。とても実用的で、食べ終えるにも問題がない。
開けてみると、中には彼がよく食べるフレーバーがいくつか入ってあり、そのうちブルーベリーチーズ餡のが二つある。具がいっぱい入って、まん丸くなって、注入口からブルーベリーチーズが少し溢れている。何思が喜んでそのうちの一つを手に取り、噛もうとしているところ、向こう側にいる馮艾保が検死報告書をパッと閉じた。
「ラズベリーの匂いがしている」その意味は自明である。
何思が唯一のラスベリードーナツを取り出して、半分を引きちぎってから、残りの半分を馮艾保に渡して、彼が垂れ下がった口元を完全に無視していた。
「あなたはすでにキャラメルマキアートを飲んだ。センチネルであろう、一般の人であろう、糖分を過剰に摂取してはいけない。あなたの腹筋を考えてください」何思が雄弁した。砂糖粉がいっぱい載せている半分のドーナツを見ると、さすがに反論できない。
馮艾保は何も言い返せないだろう?彼はすっかり相棒に抑えられている無力で可哀想なセンチネルだ。良い子にしていないと、スピリットアニマルまで殴られてしまうのだ。ドーナツが半分あれば、恩を受けるみたいなことだ。
健康には良くないが、二人は楽しくて遅い朝食を静かに終えた。何思は馮艾保を前に、ブルーベリーチーズドーナツと残った半分のラスベリードーナツを食べた。馮艾保は羨ましくて仕方なかった。
「あなたも俺のようにブラックコーヒーを飲めばいい」ドーナツ箱の蓋を閉め、何思は口を拭いて、ようやく勝ったような満足感を覚えた。
無理だ!来世でも無理だ!
ブラックコーヒーはあんまりにも苦い。ブラックコーヒーの苦味から渋味、甘み、酸っぱさ、さまざまな味がわかるセンチネルもいるが、そのようなことは馮艾保にはできない。彼の舌はコーヒーの苦味しか分からない。彼はこれからの人生に苦味を味わい続けることを望まない。
「本題に入ろう。どう思う?」何思は今回の事件は不慮の事故か、それとも謀殺かについて尋ねた。
「肌の色は変わっていない。未だ柔らかい。かぶれは少しあるけど、それほど深刻ではない。ドレスを着用してから発作するまで……死亡時刻は七時二十分頃だった。現場はパニックを経てから警察に通報するので、つまり、彼らは少なくとも九十分間から百二十分間の間にドレスを身にしていた」馮艾保は検死報告書を開いて、自分が読み上げた部分を指でなぞって、相棒に見せた。
「まあ、汪監察医は確かにこう見ている。現場で確認したご遺体の状況もこの記述に合っていた。他に気付いていないディーテルについて……班長に怒られないため、ある人が愚かに携帯をマナーモードに切り替えて、検死作業に参加できなかった。もし、何かの漏れがあれば、その責任を誰に負ってもらうか、皆知っているだろう」昨日はホワイトタワーのせいで、何思の頭は少し鈍かったが、いつものように器用はしていなかった。けれども一夜寝てから、またきつい言葉ばかりになっていた。
馮艾保がわざと笑顔をつくって言った。「先輩の観察力を信頼するわ。感性が高い方で、若いセンチネルのご遺体を見て、一段細かく検査するんだろう。そうでないと、こんな分厚い報告書にはならないと思うわ」
汪監察医は普段仕事を怠っているわけではない。しかし、人間にはやっぱり私心があるもので、間もなくホワイトタワーを出る若いセンチネルが命を落としたことに対して、特別な同情を抱き、特別に注意を払っているのも当然だ。
このことについて、何思は異議がなく、賛同して頷いた。「事件の原因は不慮の事故の可能性が高いという汪監察医の説明に賛同しているのか?」
「分からない……」馮艾保が状況を吟味して言った。「ドレスから検出された薬物の量は普通、洋服屋が使う量ではなかった。洗剤はとにかく、死体の防腐処理に使う防腐剤を洋服に使う洋服屋はあるだろうか?そして、昨日の推測は間違えていた。その衣料は合成繊維ではなく、本物のシルクだった……ホワイトタワーのひよこはどこからシルク製品を買うお金を得たのか?」
シルクのシャツとシルクのドレス。体に密着した部分に薬品による変色があり、深刻ではないが、品質や価格にも影響する。一般の衣料品店では、このような明らかな欠陥のある製品を販売することはまずない。
「古着屋?」 二人は声を揃えて言った。
「これは合理的だ。古着の中には状態の悪いものもあり、汚れをきれいに除去するために、より大量で効果の高いクリーナーが必要だ。化学物質を使う場合もある。この二点のシルク製品に重大な欠陥があるのも不思議ではない。この古着屋は慎重かつ特に気を遣う店ではない」と何思が言った。
「防腐剤についてはどう思う?なぜ衣類に防腐剤が入っているか?」と馮艾保が再び尋ねた。
何思はぎょっとして眉をひそめ、しばらく考えた。「一つの推測をしているが、……今の時点で、未だ確認しがたい。俺と同じ考えをしているだろう?」
馮艾保は答えず、肩をすくめた。
「とにかく、まず彼らがどこで服を買ったのかを調べよう」何思は最終的に結論を下した。
「異議はない」センチネルが両手を広げて、報告書をクラフト封筒に戻した。「二人の若者の家族には知らせを受けられたか?」
「いいえ」何思は大きくため息をついた。「入手した情報によれば、両方とも一般の家庭の出身で、六代前の先祖を遡ってみると、家族にはセンチネルもガイドもいないという。二者ともホワイトタワーに入ってから家族との連絡が途切れたという」
「彼らは上級のセンチネルか?」馮艾保は相手が何を言おうかを理解している。
センチネルとガイドは遺伝子変異で発生するもので、その確率が非常に低い。原因も未だに不明だ。一般の家庭でもセンチネルやガイドの子が生まれることがある。それに対し、センチネルとガイドの組み合わせでは、生まれた子はほとんど普通の子だ。
かつての長い間、世界が平和ではなかった頃、センチネルとガイドが遺伝子変異で起きたことが確認された後、それぞれホワイトタワーとブラックタワーに入れられるようにしていた。センチネルはホワイトタワーに、ガイドはブラックタワーに囚われていた。二つのタワーが町の両端に立ち、遠くから互いに睨んでいた。
その後、世界が平和になってきてから、ブラックタワーは廃棄された。ガイドも解放されて、一般社会で生活して成長することは可能になった。ガイドの特徴が表れ始めた後、ガイド専用の教育科目を追加して受ければいい。
しかし、センチネルの方は五感が脆く、ミュートとはずいぶん違う体質があるので、センチネルとミュート両方を守るため、特徴が表れてからホワイトタワーに隔離し、教育を受けることになる。
とはいえ、センチネルに対して、多くの人は不安と恐れを感じている。その理由は年齢を重ねていくと、センチネルが精神面におけるダメージが大きくなり、気が狂いやすくなってしまうのだ。下級のセンチネルはまだいいが、上級のセンチネルはまるで不発弾みたいの存在だ。ガイドと組み合わせないと、社会に重大な被害をもたす可能性が高い。
しかし、これはすべて遠い昔のことである。ここ数十年では、ガイドフェロモンが広く使われ、そして完全な支援手段があるので、センチネルの暴走や傷害事件はもうめったに発生しない。
それでも、センチネルを避ける人は依然として多い。特に家族に以前センチネルが現れることのない家庭では、センチネルの子供がホワイトタワーに入った後、一方的に連絡を絶つことがよくある。将来的には、センチネルがホワイトタワーを離れた後、元の家族に連絡する意思があるかどうかにかかっている。これらの家庭は子供を受け入れて家族関係を取り戻す意思があるかどうかはまた別の問題だ。
「はい、どちらもA++級のセンチネルであり、将来S級のセンチネルに成長する可能性があった……だからこのような残念なことが起きたのだ」何思は悲しく言った。
「誰にもわからないわ」馮艾保は顔を俯け、自分の表情を人に見せないようにした。手で報告書が入ったクラフト封筒を手で軽く叩いた。「ところで、結婚披露宴はいつやるの?」
意外なことに、突然そのような質問をされた何思は、すぐに反応せず、数秒間ぼんやりしていた。
「もうすでに登録したのであれば、今は既婚者になったよね。ゆっくりと結婚披露宴を計画してもいいよね。お手伝いするわ!」馮艾保は顔を上げて、その目がキラキラしている。
「いや……いきなりどうして……あぁ?」何思の精神力が一瞬混乱した。いつも精神図景に隠れているスピリットアニマルが飛び出した。コウライウグイスだった。絶え間なく馮艾保の周りでさえずっていた。
そのさえずりを訳すと、おそらく人を罵る言葉ばかりだ。
彼は馮艾保の極端な感情変化に本当についていけない。以前からはかろうじて彼の感情変化を追いついていた。しかし昨夜から、こいつの機嫌は暴走馬のようで、決まった方向性がなく走り回っている。追いつくどころか、馬のお尻も視野外に行ってしまったようになる。
「昨日、あなたの結婚のニュースを消化できると思っていたが、今分かったのだ……自分に対する認識に間違いがあるかもしれない」馮艾保は率直に認めた。彼は両手を広げてとてもリラックスしていたが、言い出した話は大きな爆弾のようだ。「私には分からないな……あなたは一体どうやって私の知らない場所で、私の知らない人とマイナス距離で密接に接触できたのか。さらに、それを私に気付かせないようにできたのも、見当もつかない。何故私に隠していたの?」
「セックスについてとても巧みに述べてくれてありがとう」何思は機嫌が痛められた気持ちで答えた。「これはプライベートのことで、あなたに隠すつもりもなかった。実際に、この週末にあなたを俺の家に夕食に招待すると考えていた。俺の夫を紹介したいと思って」
予想もせず、昨日汪監察医が先に言ってしまった。何思は単なるこのことをどうやって伝えるかを迷っていた。それに普段、仕事が忙しくて、伝えることを先延ばしにしていまい、結婚が先になってしまった。
「まぁまぁ、真摯に誘ってくれるなら断る理由は無いけど」得をしたのに割を食った振りをしたと言える。
白目をむくのが癖になっているように何思が感じた。彼がぶすっとした態度で馮艾保と時間を約束した。場所は二人ともよく知っているところで、つまり何思がずっと住んでいる場所だ。彼は結婚後に引っ越す予定はなかった。
「ところで、あなたのスピリットアニマルがドアの隙間から出ていったのを見たような気がする……あいつは何のために出掛けたのか?」彼は突然、何かがおかしいと感じた。
ぽっちゃりしたスピリットアニマルがドアの隙間から出て、その肉厚なお尻を二人に向けて揺らした瞬間は、馮艾保が突然結婚披露宴のことを言っていた時のようだった。
センチネルは清々しくて純粋な笑顔を見せた。「あぁ、ちょっとお散歩、ね」
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