桜はまだ咲かない
青海老ハルヤ
1
桜の蕾も膨らむ今日の良き日に。
私は思い切り担任をぶん殴った。
世の中は色んなものに喩えられる。海だったりゲームだったりロウソクだったり。なぜそんなに喩えたがるか分からない。それでも偉い人はよく分からない喩えが大好きだ。だからこうやって国語の入試には意味の分からない喩えが沢山出てくる。意味のわからない喩えを、受験生は分かった気になって説明する。そんなもので意味があるのか。
そうやって私がグダグダとエセ啓蒙を垂れているのは、ただ目の前の問題が分からないからだった。「つまり」の意味が分からない。何が「つまり」だ。何も繋がってないじゃないか。訳の分からない喩えがあるだけだ。しかし問題提供者によるとそこには因果関係があるそうで、それを説明しなければならないらしい。知るか。私は鉛筆を置いた。諦めが早いとよく言われるが、分からないんだからしょうがないだろうと思う。
帰りの電車は足が鉛のように重かった。自分でも喩えてるじゃんか、と心の中の誰かがツッコミを入れる。とても疲れていた。私立よりもはるかに疲れた。まだ後期の受験が残っているかもしれないことを考えると気が重い。
いつも声がするのだ。まだ止まるなと。もう止まってしまいたかった。それを制する心は、私にとってなんなんだ。それがずっと分からない。
諦めなければ云々人は言う。知るか。諦めるも何も元からこんなことしたい訳じゃないのに。受験なんて、もしそんな制度がなければいったい誰がやりたいと思うんだ。そんなやつは人間じゃない。私はそう思う。
でも、普通は逆らしい。世間一般は思ったよりも狂ってる。私が正しいなんて言うつもりもないけれど、社会は絶対正しくない、はずだ。そうであって欲しいと思う。
家に着くと誰もいなかった。今は大事な大事な選挙期間中だからだと思い出す。親が政治家。そういうことだ。
冷えた米と冷蔵庫のおかずをいくつか取り出し、レンジで温める。レンジは本当に便利だ。そして使いにくい。直接火に当てるより冷めるのが早い。
ご飯は砂利の味がした。
桜はまだ咲かない 青海老ハルヤ @ebichiri99
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