ジョナサンの恋愛シナリオ

非逆/KadoKado 角角者

序章

 ジョナサンは一人の少年をまさかこんなに好きになるとは思いもよらなかった。全く予想外だった。自分のことを平凡で特徴のない少年で目立つところは何もないと思っていた。ジョナサンは同級生の間でもあまり人気がなく、学校の人気者と一緒にいることもなかった。彼自身も徹底的なオタクというわけではなかったので、あのいつも妙なバンドのTシャツを着ている連中も彼を受け入れることはなかった。彼は『彼』にすぎなかった。いつでも、そしてこれからも──いつも一人でいて、友達がそばにいるときでもせいぜい一人か二人程度だった。ジョナサンは平凡で平和な日々を過ごし、平凡で優しい女性に巡り合って、最後は平凡で平和なまま死ぬのだろう。そして、彼はそれを問題視することはなかった。

 そう、慶浩チンハオという名の少年と出会うまでは。

 それは決してハリウッド映画のようなラブストーリーではなかった。ドラマチックな要素は何もなかった。慶浩と話したことさえなかった。実際、ジョナサンが初めて慶浩と出会ったとき、慶浩が自分の存在など全く気にしていないことを知っていた。

 その日、ジョナサンはハイリーと一緒にキャンパス内を歩いていた。ハイリーは彼の親友であり、唯一の友達だった。二人は幼稚園の頃から家が隣同士で、現在もそうだった。二人は肩を並べて歩いていると、ジョナサンは騒がしい学生たちが学校の劇場の入口に入っていく姿が見えた。学校の劇団についてジョナサンは詳しくなかった。それは彼が入学してまだ数か月しか経たなかったから。時々、劇団員の名前を聞いたことがあった。劇団員たちは学校の人気者で──いつもパーティーを開いて、ずっと学校の中をうろちょろしていた。そして、自分たちの将来について全く心配していない人たちであった。ジョナサンはいつも彼らが学生食堂の中央のテーブル数卓に座り、傍若無人に大声で話している姿を見ていた。それはまるでレストラン全体に彼らしか存在していなくて、全ての空間を占有しているように見えた。もしかしたら、彼らから見れば確かにそうだったかもしれない。

 劇団員の中に一人のアジア系少年がいた。ジョナサンは今まで学生食堂にいる彼のことを気付かなかった。もしかしたら教学棟の間で見たこともなかった。ところがこの夜に、ハイリーと一緒に偶然彼らを見かけたとき、ジョナサンは自分がアジア系少年の姿に思わずくぎ付けになっていることに気づいた。

 ジョナサンは自分がなぜこんな気持ちを抱いているのかわからなかった。もしかしたら、あの少年の口角が曲がった笑顔か、肩をすくめた彼がすごく自由気ままで束縛されていない姿が理由かもしれない。それとも広い肩幅とまっすぐ伸びた背を持つ彼の体型か。背筋を伸ばして堂々と歩いている姿が、どこからともなくスポットライトがまっすぐ彼の体に当たって、彼だけを照らし、彼を輝かせたかもしれない。すると突然、ジョナサンの目に見えるのはその少年の弧を描いた両目だけになり、耳には彼の笑い声しか聴こえなかった。

「どうしたの、知ってるの?」ハイリーがそばで聞いてきた。

「いや、知らない」ジョナサンは顔をなんとかハイリーへ向いた。「あの人は誰だろう?あのアジア系の人」

「慶浩のこと?」ハイリーは片方の眉を上げた。「慶浩がどうしたの?」

「なんでもない、聞いてみただけ」ジョナサンがそう答えた。

 慶浩。ジョナサンは心の中でその名前を呟いた。そして、彼は知った、慶浩がほかの人と違うことを。彼がその少年に対する感情が他の人に対するものとは違った。これまでいろいろな人に対して感じたものとは違った──もっと正確に言えば、特に女子に対する感情とは違った。ハイリーと一緒にいるときの感覚とも違った。

 ジョナサンは何日か時間をかけて少しずつ分かったことは、それだけじゃなかった。自分は単に慶浩の友達になりたいわけじゃなかった。二人が偶然簡単に言葉を交わしたとき──ジョナサンはなぜ二人が会話していたのかさえ覚えていなかったが、細かい内容はまるで昨日のことのようにはっきり覚えていた──ジョナサンは気づいた、自分は慶浩が大好きだということを。その理由の一つが慶浩は時々毒舌になることがあるが、いつも面白い話をするということ。もう一つはジョナサンの頭では理解できないものだった。そして、『夢中』という言葉がとうとうジョナサンの頭の中に浮かんだ。

 彼はゲイだった。そして、彼は学校で最も人気がある男子学生グループのアジア系少年に夢中になったのだ。

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