第四章 優しさと殺意(2)

 白清夙はすぐさまにドアを押し開けて中に入っていった。大股に歩いてあの者の体を裏返したら、陸子涼が両目を閉じ、呼吸が荒くて頬を赤く染まり、辛そうにしている様子を見た。

 白清夙はぱっと彼の体を検査した。目立った外傷がないけど、肌を触ると非常に熱い。

 陸子涼は高熱を出している。

 白清夙はそっと彼の顔を叩き、「小涼?」と声をかけた。

 陸子涼は熱のせいで頭がくらくらしているようで、抑えきれない咳の他に、何の反応もなかった。

 彼は朝に溺水して気道を傷つけ、今は高熱を出して、もしかしたら肺炎になった可能性がある。白清夙は自分のコートを脱ぎ彼を包み込んで、太い腕に力を入れて、何と百八十四センチもある陸子涼をお姫様抱っこで抱き上げた!

 振り返って外に行こうとした時、腕の中にいる陸子涼が小動物のようなうめき声で「寒い……」とこぼした。

 白清夙は小声で「その状況じゃまずいです。病院まで連れていきます」

 病院……

 病院!?

 陸子涼は瞬時に目が覚めた。

 病院だって?病院へ行っちゃダメだ!彼の紙でできた体は検査を受けちゃいけない!

 でも彼が言葉を口にする前、白清夙はもう足を踏み出して前へ進んだ。陸子涼はくらくらしながら目を開け、自分がどのように移動しているのかを意識できないまま、その怖い大きな鉄のドアが目に入った。

 陸子涼は一瞬にして思い返し、ドアの外にあったその極めて怖い血だらけの顔を思い出すと、直ちに激しくあがき始めた。「ダ、ダメです、ドアを開けないでください!外、外に──」

 ──お化けがいる!

 白清夙の両腕は鉄のペンチのように彼をしっかりと取り囲めた。「動かないでください」

 陸子涼の情緒が不安定になり、感情を高ぶると息が詰まり、咳が止まれなかった。彼がようやく落ち着いた頃、白清夙はもう足を止め、鉄のドアまでにあと三メートルしか離れていないところに止まっていることに気付いた。

 白清夙はそっと彼に尋ねた。「外に何かいますか?」

 陸子涼の呼吸が荒く、熱も出していて、またものに怯えて、精神が一番衰弱している頃だった。目に残る驚きは完全に隠し切れず、暫くぼうっとして何も話せなかった。

「何か見ましたか、小涼?」

 陸子涼は我に返って、驚きながら『外にお化けがいる、絶対にドアを開けないでください』と言おうとして、言葉が喉に上がった瞬間に、彼はふと固まった。

 彼はそのお化けのかすれた恨みのある宣告を思い出した。

 ──命で償わせてもらう。

 誰の命で償わせてもらう?

 陸子涼は急に冷やりとした。

 そのお化けの顔は全部潰れて、明らかに誰かに残酷に殺されたはずだ。犯人以外に、誰に向かって命で償わせてもらうと言うの?

 陸子涼のうなじには瞬く間に冷や汗が落ちた。

 彼は急に自分が白清夙にお姫様抱っこしていることに気付いた。

 彼は白清夙に腕の中に抑えられ、体がくっつき、何か動きがあれば直ぐに気づかれてしまう。

 白清夙の浅い呼吸音はまるで耳元に響いているようで、微かな吐息が彼の頬を撫で、わずかでリズム感のある痺れと痒みをもたらし、まるである種の漫然とした探りのようだった。

「小涼」

 陸子涼は無意識に答え、声が少し震えながら「うん?」と答えた。

「なんで黙っていますか?一体、何かがあなたをこれまでに怖がらせました?」

 陸子涼は全身固くなって、何も喋られなかった。大きな心音が鼓膜を震わせ、ドンドンと鳴り響き、まるで命を取り立てているようなリズムだった。

 そんな時に、廊下にあるライトは何故か急に、ぱっという音とともに消えた。

 窒息しそうなほどの暗闇に包まれた──

 まるで殺人鬼に無声で張られた羅網のようだ。

 陸子涼はその瞬間に怒ったようにあがき始めた!

 彼はどこから湧いてきた力で白清夙の胸元を強く押した。水を離れた魚のように激しく弾み、一瞬にして白清夙の束縛から逃れ、地面に落ちた!

 逃げなきゃ。

 彼は逃げなきゃ、この家から逃げなきゃ、白清夙から遠く離れなきゃいけない。でないと、彼は絶対にあのお化けと同じ結末を迎えることになる!

 でも沸き上がった力はほんの一瞬なものだった。遅延した脱力感がすぐに全身を巡り、陸子涼は地面に落ちた後に全然起き上がれなかった。手足の力が弱く、全身の筋肉が酷いほどの疲れと痛みに覆われた。

 彼は酷い熱に侵されている。

 陸子涼はそのまま捕まえられることに甘んじなかった。彼は荒い呼吸をして、顔を上げて必死に開けられているドアを見つめ、精一杯に前へ一歩這入っていった……

 彼の腰はすぐに誰かに後ろから力強く囲まれ、一つの巨大な力で抱き上げられた──

 彼はもう一度白清夙の腕の中に抱き上げられた!

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