第二章 死体を盗んで来なければ(2)
この古いアパートはかなりの歴史があるように見える。灰色の壁面には非常にまだらで、一列になっているメールボックスは全て、広告チラシでいっぱいになり、いくつからは溢れて、あちこちに散らばっている。
陸子涼は紙を踏んで頭を上げた。
彼の死体はここの四階にある。
彼が数時間前にいた浴室の中に横たわっている。
アパートのドアは、一度閉めると自動的にロックされる金属製のもので、入るには鍵で開ける必要がある。扉板には四角い窓があり、フローラガラスは長年の汚れで覆われ、中の様子はちっとも見通せない。
陸子涼はそのドアを開けてみた。やっぱり鍵がかかっている。彼は一歩下がって、アパートの横にある防火路に目を向けて、どうやって入れるかを考えていた時、そのドアが押されて開いた。
あるおばあさんが買い物かごを持って、買い物に出かけようとしていた。
陸子涼は眉を上げた。めったにない幸運だ。そのおばあさんが首を曲った瞬間を利用して、陸子涼は素早く中に入った。
ドアを入るとすぐに狭い階段があり、センサーライトが壊れているようで、絶えずちらついていた。
陸子涼は音を立てずに階段を上がる。
ワンフロアに二室があり、汚い床には紙屑や死んだゴキブリが散らかっている。三階を過ぎて、四階への途中に陸子涼は足を止めて上の階を眺めた。
四階の二室はどちらも静かで、何の音も聞こえなかった。
しかし、彼の心臓の鼓動が速くなり始めた。
殺人犯の家に潜入して死体を盗むことはスリラー映画にしかない展開だろう。その過程で起こりうるあらゆるアクシデントを想像せずにはいられない。例えば、ドアを開けたらすぐに殺人犯に会ったことや、浴室に入った途端殺人犯がそこにいるのを気付いたこと。または、盗みの最中に目を覚ました殺人犯が後ろに立って自分を見つめること。さらに、死体をその家から運び出そうとするとき、運が悪く殺人犯が家に帰ってきたこととか……。
陸子涼は軽く舌打ちをして拳を握りしめた。
何か武器を持って来ればよかったのに。野球バットとかを。
しかし、尻込みすることをしないタイプなので、陸子涼は深呼吸を繰り返して、心拍を安定させてから階段を上り、左側の家のドアまで歩いてきた。
下から登ってきた途中、どの家もセキュリティドアを設置していないことを確認した。この殺人犯の家も例外ではない。陸子涼はドアに寄りかかって注意深く耳を傾け、中に誰もいないことを確認しようとしたところ、そのドアがしっかり閉じていないことが分かった。
彼は一瞬呆気にとられたが、そっと引っ張ってみた。
ガチャッ。
不意にドアが開いた。
陸子涼は息を止めた。彼の手は空中で数秒間止まった後、すぐに全身で反応した。彼は体を反対側の壁にくっつくように素早く移動し、ドアを開けた部屋の人の死角に隠れた。
しかし、家の中は何も動きがなかった。
殺人犯は本当に家にいないのか?
陸子涼の額に汗をかき、心の中は苦しみもがいていた。この時、突然上の階の階段からあわただしい足音がした。
上の階の人が下りてきているのだ。
陸子涼が深呼吸をした。もし彼のこそこそとしている行動を誰かに見つかれば、間違いなく泥棒と見なされるだろう。そうなると、警察が来て、この家で死体があることがばれてしまうと、解剖される運命から逃れることができなくなるだろう。これを考えると、彼はすぐに躊躇することをやめて、そのままドアを開けて部屋に入って、後ろ手にそっとドアを閉めた。
見回すと、室内には誰もいなかった。
緊張感が限界まで高まっていた気持ちは少し落ち着いてきた。
「クソっ、緊張感半端ないわ」
通路のあわただしい足音がドアの外を通り過ぎて、そのまま下の階へ行った。陸子涼は気を取り直して、再びこの家の中の調度品全てをもう一度見て確認した。
薄暗い日差しが窓から射し込んでいる。この家は一居室、一寝室、一浴室の部屋であり、居室にはコーヒーテーブルとソファベッドがある。その上に、さらに床まで書類や本が散らかっている。寝室の扉が開けっ放しで、ベッドを置かず、物の貯蔵室として利用されている。棚や床には、あらゆる種類の道具や雑物がぎっしり詰まっている。
殺人犯がここを住居にしていないのは明らかだ。ここは彼が物を保管する場所だ。
陸子涼は慎重に雑物を跨いで、半分閉じていた浴室のプラスチック製のドアを押し開けた。
中の空気は冷たい湿気で満たされている。上方にある通気窓からわずかな光が漏れてきて、古い浴室は夜のベールを脱がし、その輪郭が少し現れてきた。
暗いと思い、陸子涼は壁の電気スイッチを探そうとして手を伸ばした。けれども、電気スイッチの場所が分かる前に、壁隅に嵌っている古い浴槽に目が取られた。
浴槽は昨夜と変わらず、水が溜まっている。
そして、ある若者の死体が水の中に浸かっている。
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