お百度参りする系の健気美人だと思ったら、釘の音が聞こえてきたんだが

白ごじ

「バナナはおやつに入りますか?」案件

 僕は深夜の散歩に出かけた。

 友人の彼女の浮気調査をするためだ。

 彼女は最近毎晩、同じ時間に家を抜け出しているという。

 どこへ行くのだろうか。

 探偵気分で彼女を追ううちに、周囲の違和感に気づく。



「やけに街灯が少ない場所を通るな」



 どうせあいつの被害妄想の笑い話と思っていたのだけれど、まさか黒なのか。

 安請け合いをしたことを後悔した気持ちは、彼女が森深い山道へと入っていく姿を見て霧散した。

 あの山道の先には、この辺りでは有名な神社がある。



「なんだよ、良い彼女じゃないか」



 友人は明日、試験を控えている。仕事のキャリアアップでとても重要な試験らしい。あの酒豪が、ここしばらくは飲みの誘いも断っていたくらいだ。

 彼女は試験合格のお百度参りをしてくれているのだ。

 悪いことをした。確かこういうのは、人に見られずに行うものだったはずだ。

 僕は気づかなかったふりで踵を返す。

 その瞬間。


 カーン、カーン。


 釘を打つ音が聞こえた。

 体中の血液が凍る。


 僕は震える歯音を隠すために指を噛む。彼女に聞こえるわけがないと分かっていても、必死に足音を殺してその場を離れた。

 ようやっとひと心地着くまで離れ、僕は友人に電話をかける。



「ど、どうだっ──」

「お前この野郎! 馬鹿! 浮気してんのお前じゃないか!」

「はぁ!? 何でそんな結論になるんだ!?」


「そうでもなけりゃ、丑の刻参りなんてするか!?」



 声をひそめた震え混じりの僕の怒声に、友人は絶句している。

 深夜の森近くなんて街灯もなく、街の喧騒も遠い。

 つまりはとても暗くて静かだということで、現場からは大分離れているはずなのに聞こえるのだ。

 カーン、カーン、という一定間隔で何かを打つ音が。

 しばしの沈黙の後、「いや、まさか」「でもそれしか」とぶつぶつ呟くと、友人は随分と重々しい雰囲気で口を開く。



「……なあ、アニメキャラがプリントされた抱き枕って、浮気に入ると思うか?」

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お百度参りする系の健気美人だと思ったら、釘の音が聞こえてきたんだが 白ごじ @shirogoji

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